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第53回 すべてが順調なときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

いいことが続いて、すべてが順調と思えるときがあります。

努力が実ったのか、偶然のめぐり合わせか、こうなってほしいと願うことが実現する不思議な感覚。

そんな時に思い出す詩があります。

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From Pippa Passes
Robert Browning

The year’s at the spring,
And day’s at the morn;
Morning’s at seven;
The hill-side’s dew-pearled;
The lark’s on the wing;
The snail’s on the thorn;
God’s in his Heaven —
All’s right with the world!

*****

『ピッパが通る』より
ロバート・ブラウニング

年は巡り今は、春
日は巡り今は、朝
朝は七時
丘は真珠の露に光り
雲雀は空高く翔ける
かたつむりは茨の垣を這う
神は天に
この世は泰平なり!

*****

春の朝。朝露に光る丘の緑。空を翔けるひばり。茨を這うかたつむり。

大きな景色も、足元の小さな生き物も、すべてが思いのままに、そこにある。

そんな満ち足りた、平和な瞬間ですね。

*****

しかし!この詩、実はそんなに単純な詩ではないんです!

この詩は、『ピッパが通る』というロバート・ブラウニングの詩劇で歌われる劇中詩なのですが、詩劇そのものは、色恋沙汰の果ての惨劇を描いているんです。

この詩を口ずさむのはピッパという若い女工で、その悲劇に全く関わりはなく、それによって、この詩の天真爛漫さが皮肉にも一層強調されているんです。

この詩のあとで、主人公たちは、色恋の勢いにまかせて犯してしまった過ちの重さに耐えきれず、苦悶し、喧嘩し、悲劇的最期を遂げます(自業自得と言えば、それまでなのですが)。

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それで思うのは、どんなに良いことがあっても、きっと悪いこともまたあるだろうという、人生の悲観的な面です。

天変地異や、事件事故。わたしたちの人生はいつ何があるか分かりません。

しかし、そういった事実に落胆するのではなく、そういうものとして人生を受け止めるようになると、少々のアップダウンにも動じなくなるということが、一番大きいように思います。

こんな無垢で平和な詩なのに、そんなことを考えてしまうのは、良いような悪いような、複雑な気持ちになります。

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今回の訳のポイント

人生という道は、常に曲がりくねっていて、次の角ではどんなことが待っているかは、決して予測はできない。

そんなことを考えると思い出すのは、ルーシー・モード・モンゴメリーの小説『赤毛のアン』の最後の一節です。

この詩の最後が引用されて、『赤毛のアン』の物語は幕を閉じるのですが、そこでは次の角を曲がった先にあるものへの「希望」が感じられて、元気がでます。

If the path set before her feet was to be narrow she knew that flowers of quiet happiness would bloom along it. The joys of sincere work and worthy aspiration and congenial friendship were to be hers; nothing could rob her of her birthright of fancy or her ideal world of dreams. And there was always the bend in the road!

“‘God’s in his heaven, all’s right with the world,'” whispered Anne softly.

これから辿る道が、たとえ狭い道だとしても、アンには分かっていた。その道に沿って、つつましい幸せという花が咲き満ちるのだということを。真摯に働くことの喜び、立派な希望、気の合う友人との友情、これらは自分のものになるのだ。生まれつきの想像力を、夢に満ちた理想の世界を、なにものもアンから奪うこととはできないのだ。そして、道にはいつも曲がり角があるのだ!

アンはそっとつぶやいた。「神は天に、この世は泰平なり!」

 

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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