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第109回 魔法の力を信じたいときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

魔法があったら、ひとの苦しみを取り除いて、素敵な世界を一瞬で作れるのだろうかと思ったりします。

魔法の力を夢見ている少年ではないのですが、春の森奥深くを歩くと、魔法は確かにあるのかもと思えてきます。

「夜は魔法使い」そう宣言する、こんな詩を読んでみてください。

*****

An April Night
Lucy Maud Montgomery

The moon comes up o’er the deeps of the woods,
And the long, low dingles that hide in the hills,
Where the ancient beeches are moist with buds
Over the pools and the whimpering rills;

And with her the mists, like dryads that creep
From their oaks, or the spirits of pine-hid springs,
Who hold, while the eyes of the world are asleep,
With the wind on the hills their gay revellings.

Down on the marshlands with flicker and glow
Wanders Will-o’-the-Wisp through the night,
Seeking for witch-gold lost long ago
By the glimmer of goblin lantern-light.

The night is a sorceress, dusk-eyed and dear,
Akin to all eerie and elfin things,
Who weaves about us in meadow and mere
The spell of a hundred vanished Springs.

*****

四月の夜
ルーシー・モード・モンゴメリー

月は昇る 森の奥深くに
山間に隠れて長く低く伸びる谷に
橅の老木がその蕾を露に濡らすところに
水たまりに すすり泣くようなせせらぎに

そして月とともに 霧が 木の精のように
樫の古木からそろりと忍び出る 松の木陰の泉の
水の精が 人の目が開かぬ間に
風立つ丘で楽しき宴に興じる

沼地のほとりで ちらちらと光るのは
夜通しさまよう鬼火
探し求めるのは いにしえの魔女の黄金
小鬼の提灯に照らされて

夜は魔法使い 薄暗い目をした魔法使い
不気味な妖精のごとき魔法使い
草地で沼地で わたしたちに呪文をかけてゆく
幾多の消え去った春の呪文を

*****

どうですか!妖精と魔法の怪しい雰囲気に満ちた夜の森は!

昼の光が夕暮れとともに消えて、森に足を踏み入れると、今度はそこに月の光がこぼれてきます。谷に、梢に、水たまりに、せせらぎに、月の光が差し込みます。

夜の森では、木の精と水の精が戯れ、鬼火や小鬼たちが怪しい明かりを灯します。

夜のひんやりとした空気を肌に感じながら、木の葉が揺れたり、生き物の鳴き声が聞こえたりすると、妖精や魔法を信じていなくても、昼とは違う別の世界の存在を感じ取れます。

*****

詩の最後が、何よりも謎めいています。

The spell of a hundred vanished Springs.
幾多の消え去った春の呪文を

春は幾度と巡ってきて、去ってゆく。そんな春が、私たちにかける呪文ってなんだろうかと。

アイルランドを代表する詩人、W・B・イェイツは、アイルランド各地の農夫や木こりや老婆などから妖精譚を聞き集めた『ケルトの薄明』という本を残していて、そこに妖精とはどういうものかを述べた一節があります。

If we could love and hate with as good heart as the faeries do, we might grow to be long-lived like them.
もし妖精のように、心から愛したり憎んだりできるなら、私たちも長生きできるかもしれない。

現代の複雑な社会に生きる私たちには、混じりけのない感情で生きるのはとても難しいです。

周りの人や環境に合わせて、空気を読み、行間を読み、自分の感情を吐き出す弁を常に調整しています。言いたいことを飲み込んだり、無理に周りの人に合わせてみたり。

心に素直に生きる妖精のような気持ちを忘れてしまったら、心を調整することに疲れてしまったら、春の魔法にかかりに、森に出かけてみませんか。

*****

今回の訳のポイント

この詩のような妖精の世界観を理解するためには、登場する妖精や、彼らの棲家となる自然の事物に、いかにドキドキできるかが、まず大事です。

・the ancient beeches 「橅の老木」
・pine-hid springs「松の木陰の泉」
・Wanders Will-o’-the-Wisp through the night「夜通しさまよう鬼火」
・Akin to all eerie and elfin things「不気味な妖精のごとく」

ドキドキしませんか?ドキドキしなければ、もう少し具体的な描写に目を向けてみましょう。

・the whimpering rills「すすり泣くようなせせらぎ」
・dryads that creep「そろりと忍び出る木の精」
・flicker and glow「ちらちらと光る」

遠くから見ると黒い影にしか見えない森も、よく見てみると、そこには小さきものがうごめいているのだと、これらの表現から分かります。これは、詩という言葉として表現されているからこそ、感じ取れるものでもあります。

先述の『ケルトの薄明』の冒頭、W・B・イェイツは、次のように言っています。

I have desired, like every artist, to create a little world out of the beautiful, pleasant, and significant things of this marred and clumsy world
芸術家なら誰もがそうするように、私が望んだのは、美しくやさしく大切なものが、この醜く歪んだ世の中に存在していて、それらから小さな世界を創り上げることだ。

この世界はいつも醜く歪んでいますが、そこに小さな世界を創り上げることができる、芸術という魔法の力をいつも信じていたい。そう思います。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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