ENGLISH LEARNING

第116回 雨が続くと思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

梅雨の季節。

毎日のように雨が降り、じめじめしてきます。しとしと降る雨の音を聞きながら、ある詩のことを思い出します。

ものすごく短い詩で、「え、だから?」という詩なのですが、無理やり何かを感じ取ってみてください。

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Rain
Robert Louis Stevenson

The rain is raining all around,
It falls on field and tree,
It rains on the umbrellas here,
And on the ships at sea.


ロバート・ルイス・スティーヴンソン

どこもかしこも 雨
雨は降る 草原に木に
雨粒は この傘に
海をゆく船に

*****

えー、ただ「そこにもここにも雨が降っている」と言ってるだけじゃないか。そう自分も思っていたんです。

ところが、ある時ふと、もっと大きなストーリーを感じてしまってから、特別な詩になったんです。

たった4行ですが、まず映像的にダイナミックです。

抽象的で、具体的にどのような場所とも言わず、all around「どこもかしこも」という淡いイメージで始まり、filed「草原」という広い空間から、tree「木」という個別の存在に視点が移り、今度はtheumbrealls「傘」という目の前のものにフォーカスしていきます。

じゃあ、次はさらにフォーカスして、雨粒の一つ一つ!と思うと、まさかの海!

果てしない量の雨水で出来た海!誰かが「大きな水たまりじゃないか」と言った海!

自分の手の中にある傘を見て、遥か彼方の広大な海を思う。

*****

これって、世界のドキュメンタリーを見たときの感覚に近くないですか。

今あなたが着ているシャツは中国の工場に、革の鞄はバングラデシュの工場に、今、口に入れたタコはモーリタニアの海につながっているのだ。

今ここにあるものは、遠くの場所とつながっていて、大きなストーリーの果てにここにたどり着いたんだ。

考えてみると、わたしたちは子どもの頃から、お茶碗に残った米粒を見て、「お百姓さんに申し訳ないよ」と言われてきたのです。

お茶碗を覗き込んで、そのひと粒を箸でつまみ、口に運んだときの子どもの頃の心を、この詩は思い出させてくれるのです。

*****

今回の訳のポイント

この詩を見て、英語のtheの役割について考えざるを得ません。というか、ぜひ考えていただきたい!

theは、まず、読み手・聞き手にもそれが何であるかイメージできるものにつくというルールがあります。

It rains on the umbrellas here,
And on the ships at sea.
雨粒は この傘に
海をゆく船に

The umbrellas hereと言われると、今、目に入る傘のイメージです。眼前にあるのだから、それが何かイメージできます。

最後の行はどうでしょうか。

The shipsは、「海に浮かぶ船」と言われたときに、何となく頭に浮かぶ写真や絵画的なイメージがあるのではないでしょうか。微妙ですかね。イメージできるのであれば、theでオッケーということにしておきましょう!

最後にat seaがあります。なぜここにはtheがないのでしょうか。

冠詞がつくのは、それが何らかの形をもつということになります。しかし、ここではat seaとなっていて、海が形を持たないということになります。

これは、by bus「バスで」と似ています。これは、車両として「物体」のバスでなく、移動の「手段」としてのバスとなります。「手段」という概念そのものには、形はないので、by busとなり、同じように、海を「手段」として使うのであれば、at seaは「航行中」となるのです。

ということで、「雨が降っている」というだけの4行の詩だけで、こんなにも多くのことを考えることができる。お茶碗いっぱいのご飯を食べきって、「ごちそうさまでした」の気分ですね。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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