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第151回 八方塞がりなときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

仕事や生活の中で、置かれた状況から逃れられなくなってしまうときがあります。

まるで四方を囲まれ牢獄に閉じ込められているかのような感覚。

目の前の現実を乗り越えようと、必死にもがくとき。

そんなときに思い出す詩があります。

*****

I never hear the word “escape”
Emily Dickinson

I never hear the word “escape”
Without a quicker blood,
A sudden expectation,
A flying attitude.

I never hear of prisons broad
By soldiers battered down,
But I tug childish at my bars, —
Only to fail again!

*****

『脱走』という言葉を聞くと
エミリー・ディキンソン

『脱走』という言葉を聞くと
いつも血が騒ぎだす、
不意に高まる期待、
飛び立つ準備!

大きな監獄を
兵士が打ち壊したと聞くと、
いつも子どもみたいに格子を揺さぶってみる
うまくいったためしはないけれど!

*****

『脱走』というひとつの言葉を聞くだけで、ここまで劇的な思いに浸れるなんて、さすが詩人ですよね。

A sudden expectation,
A flying attitude.
不意に高まる期待、
飛び立つ準備!

物理的に心理的に閉じ込められていた人が、その呪縛を解き放ち、自由の身を目指す。決意とその行動がもたらす可能性にワクワクと心が躍る。

自分自身のことでなくても、その言葉だけで、自分にとっての可能性としても感じられる感覚ってありますよね。自分もがんばってみようとか、自分にもできるかもしれない、という思いが沸き上がるのです。

そんな現状打破の期待と夢だけならば、話は単純なのですが、そこで終わらないのが詩の良いところです。

*****

I never hear of prisons broad
By soldiers battered down,
But I tug childish at my bars, —
Only to fail again!
大きな牢獄を
兵士が打ち壊したと聞くと、
いつも子どもみたいに格子を揺さぶってみる
うまくいったためしはないけれど!

他の誰かが果たした脱出劇に刺激を受けて、今度は自分も!と思うのですが、人生はそう甘くありません。

家庭や仕事、社会のあちらこちらに、見えない格子があって、わたしたちを閉じ込めています。牢獄のような日々の中で、思いが巡ります。自分に何か落ち度があるのだろうか。がんじがらめの孤独な囲いの中にいるのはなぜだろうか。

そうした日々を乗り越えようと、現実にあらがい、あがき、もがいても、わたしたちを閉じ込める格子はびくともしません。その姿はまるで、ただじたばたしている子どものようにも見えたりするのです。ときに、そういった姿を見て、心無い人が嘲笑したりもします。

しかし、わたしたちにとって『脱走』は真剣なのです。未来の可能性がつぶされそうになったり、人とのつながりを絶たれたり。そんな現実は抜け出さなければいけない。

そうやって人が必死にもがいている姿を見ると、その人を閉じ込めている、見えない格子が見えてくるように思えるときがあります。それは社会が課した格子であったり、自分で自分を縛り付けている何かであったりするのですが、『脱走』という言葉を聞くと、そんなことを考えてしまいます。

*****

今回の訳のポイント

この詩の最大の劇的ポイントは、結論となる最後の一行です。

Only to fail again!
うまくいったためしはないけれど!

牢獄を抜け出すという希望に満ちた流れから、急転直下の展開。Only to~「結局は~てしまう」という表現が、効いていますよね。この表現を使った文の中でも、個人的ベスト3に入るくらいに気に入っています。

人生はうまくいくことばかりでないと分かっていても、牢獄のような日々を送っていると、わずかな希望の光に賭けてみたくなりもするのです。それは決して現実逃避ではありません。人間の生存本能なのだと思うことがあります。

そんなことを思うと、生き抜こうとする人間への愛おしさに胸がいっぱいになります。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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