INTERPRETATION

通訳美人道「16.通訳美人道の好感度アップ術」

柴原早苗

通訳美人道

通訳美人道の好感度アップ術
第1カ条 通訳者は「見られる職業」
 「人は見た目が9割」という本が一時期ベストセラーになり、日本社会は学歴中心社会から見た目社会へと変わっています。見た目で判断することの良し悪しは別として、見た目で第一印象が決まってしまうのが、今の世の中です。
 実は通訳者も「見られる職業」。黒子としてできる限り目立たないようにふるまっていても、やはり外見や声のトーン、話し方などで通訳者に対する評価が下されます。
そこで今回の美人道では、好感度をアップさせる方法についてお伝えしましょう。
第2カ条 洋服よりも、まず背筋
 外見をよく見せるには、清潔感のある身なりが大事ですが、それ以上に印象を決めるのが、実は「背筋」。皆さんは普段から背筋を意識していますか?携帯メールが気になるからと、つい、歩きながらボタンを操作していませんか?そのようなときは大抵、背筋が丸くなって、歩き方もノロノロ。携帯操作中の人は後ろから見てもすぐわかります。あるいは、電車の中で疲れのあまり、ぐったり座っているということはないでしょうか?案外、周囲の人は見ているものです。
 背筋の良さは、すべて習慣と意識の結果です。とにもかくにも背筋をピン!子どものころ、学校で「背筋を伸ばしなさい」と言われたことを思い出し、ぜひ背中を意識してください。
第3カ条 足にも意識が必要
 背筋を伸ばすことに慣れてきたら、次は足に意識を集中してみましょう。歩くとき、内股になっていたり、足を引きずっていたり、ドカドカと音を立てていませんか?ウォーキングの専門家は美しい歩き方について、次のように説明しています。
1. 頭の上から吊り上げられるような感覚を意識する
2. 一本の線上を歩くことをイメージする
3. かかとから着地し、両ひざがふれあうようにして歩く
 こうすることで、美しく歩けるのだそうです。なお、歩き方だけでなく、座り方もぜひ注意しましょう。最近はパンツスーツが主流になったせいか、電車の中でも足を広げて座っている女性が増えています。それに慣れるとスカートのときでも、だらしない座り方になってしまうので、要注意です。
第4カ条 車内でお化粧はしない
 電車の中でのメークも最近はずいぶん増えており、朝の女性専用車両などは携帯操作かメーク中、というケースが少なくありません。でもよく考えてみてください。どのような行為であっても、それが周りへ不快感を与えているのであれば、迷惑な行為とみなされてしまうのです。車内のお化粧に対する批判はこれまでもたくさん出てきています。「自分は構わない、周りもやっている」という基準ではなく、「少しでも他人に迷惑を及ぼす行為はやらない」という考え方が必要だと思います。周りへの気配りが必要な通訳業務だからこそ、仕事以外の面でも心遣いが求められるのです。

第5カ条 無意識のクセを改める
 自分では普段気づかないものの、実は無意識にやっているクセはありませんか?たとえば鼻をすする、爪や髪をいじる、頻繁に足を組みかえたり、持っているペンをクルクル回したり。こういうクセは本人も意外と気づかないのですが、周りにとってはそれがひとたび気になると、ずっと目障りに思えてしまいます。
 たとえば通訳業務中、訳はすばらしいけれど、ペンをクルクル回したり、ボールペンのボタンをパチパチいじられたりしたら、聞いているクライアントさんはどう感じるでしょうか?または、ブースの中でパートナーの通訳者が、自分のパートが済むたびに携帯電話をチェックしていたら・・・?自分にとっては気にならなくても、周りがどう感じるか、常に意識することが大切です。
第6カ条 持ち物へも気配りを
 「通訳者は見られる職業だから、一流品を持たなければ」とつい思ってしまいますが、ブランド品よりも大事なのが、どれだけ丁寧に使うかです。フリーランスの通訳者であれば、仕事に使うパソコンや書籍、体力維持のためのスポーツクラブや余暇などに費やす必要がありますので、給与の全額をブランド品に費やすわけにはいきません。
 むしろお勧めしたいのは、清潔感のあるものを丁寧に使うことです。カバンやお財布など、汚れたら定期的に拭き、洋服にはアイロンをかけましょう。靴磨きもお忘れなく。また、電子辞書の画面やキーボードも汚れていたら拭いておきます。通訳用ノート、筆記用具など業務で使うものも、仕事場で不快感を与えないかどうか、客観的に見てみます。ちなみに私は以前、某テレビ局でいただいたボールペンを別のテレビ局で使いそうになり、慌てたことがあります。企業名入りグッズは注意が必要です。
第7カ条 声は大きく、ハキハキと
 人の印象で大きな部分を占めるのが、話し方です。名前を呼ばれてすぐ返事をするのはもちろん、相手の目を見て聞きやすい声ではっきりと話すことが大切です。業務先で最初にきちんと挨拶ができれば、クライアントからの信頼感もグンとアップします。始めの挨拶が小声でモゴモゴしていると、その時点で「うーん、今日の通訳者は声が小さいけれど、大丈夫かな?」と不安に思われてしまうからです。
 通訳者にとって、正確な通訳をできるのはとても大事です。しかし「完璧な通訳だけれど声が小さい」のと、「一字一句は訳していないけれど、声が大きくて聞きやすい」のではどちらが良いでしょうか?自分がクライアントの立場に立って考えてみることも大事です。
第8カ条 笑顔を忘れずに
 常に口角を上げて笑顔を絶やさないこと。これは「見られる職業の人」が必ず守っていることです。たとえば皇室の方々、ホテルのフロント係、芸能人、客室乗務員などを思い浮かべてみればおわかりいただけるでしょう。歯をむき出しにして笑顔を作る必要こそありませんが、少なくとも眉間にしわを寄せていたり、口がへの字になったりしないよう、意識しましょう。童話作家の石井桃子さんは若いころ、先輩に「口角だけは上げるように」とアドバイスされて以来、実践しているそうです。そのため、出先で偶然誰かと出会っても、不快な表情を見せずにすんだと述べています。
第9カ条 すぐに返事をすること
 「レスポンスが早いこと」も好感度につながります。たとえば留守電やメール、手紙などにはすぐに返事をしましょう。たとえ返答の段階で詳しく答えられなくても、連絡を早めにすることが大切です。「ご連絡ありがとうございました。その件につきましてはまだ不明のため、改めてご連絡いたします。取り急ぎ、お返事まで」という文面でOKです。
 返事が遅いと、送り主は心理的に不安になってしまいます。業務が滞ること以上に、「なぜすぐに返事をくれないのだろう?」という懸念が出てきてしまいますので、とにもかくにも、早く返答するよう心がけましょう。
第10か条 資第10か条 通訳者はトータルコミュニケーター
 通訳者というのは特殊技能(つまり通訳力)を求められると同時に、トータルコミュニケーターであることも必要です。言葉の橋渡しをするだけでなく、場の空気を読み、適切な対応ができることも大事なのです。そのようなことができた上で、さらに好感度を上げることができれば、通訳者への信頼もさらに高まります。
 通訳者に対する信頼度が上がるということは、業界全体にとっても良いことといえます。ぜひ皆さんも、できることから実践して、好感度アップの努力をしてみませんか?

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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