INTERPRETATION

通訳美人道「12.通訳美人の通訳学校受講術」

柴原早苗

通訳美人道

通訳美人道 通訳美人の通訳学校受講術
第1ヵ条 もうすぐ通訳学校が開講!
 春になり、通訳学校が受講生の募集を始めています。パンフレットを取り寄せたり無料体験レッスンを受けたりして受講を決めた皆さんは、新しい授業に向けて期待と不安が織り交ざる時期かもしれません。そこで今回の美人道では通訳学校で学ぶ上で必要な心構えなどを見ることにしましょう。もちろん、通訳学校に限らず他の習い事でも応用できますので、参考にしてみてください。
第2ヵ条 まずは専用ノートをそろえる
 電子辞書や筆記用具など、学ぶ上で必要なものは色々ありますが、まず一番に揃えたいのが専用ノートです。ルーズリーフではなく、綴じてあるノートの方が中身もバラバラにならないので便利です。最近は学校から配布される資料の大半がA4なので、ノートもA4にして、資料も貼り付けるようにしましょう。「ノートは書き込み用、配布資料はホルダー」とバラして保存するのではなく、「時系列に」「一括して」まとめた方が試験前の復習もしやすくなります。ところで中学高校時代にノートを色分けしたり、きれいに書き込んだりしてきた方はいませんか?日本ではとかく「美しいノート」が良しとされています。でもノートはあくまでも自分の記憶の補助手段に過ぎません。「どう書き込むか」ではなく、「何を書き込むか」が大事なのです。自分の知識を確固たるものにするためのノートと割り切り、惜しみなくノートを使っていきましょう。
第3ヵ条 目標を書き込む
 目標があると人間、俄然ヤル気が出てきます。そこでカギを握るのが目標の数値化です。通訳学校に入学した以上、最終的な目標は通訳者として現場デビューすることですので、ただ漠然と「通訳者になる」ではなく、具体的な日付を設定してみましょう。たとえば「2008年4月にはアテンド通訳としてデビューする」という具合です。いきなり同時通訳者は無理でも、アテンドや商談通訳などの仕事を少しずつこなしながら実力はつけられるからです。
 
大きな目標が決まったらそれをノートの冒頭に書き込みます。学期中、辛いことがあってもその目標を何度も何度も見直すことで、自分を励ましていきましょう。
第4ヵ条 ノートは授業だけのものではない
 通訳者になるという目標が決まったら、ぜひこのノートを英語関連すべてに使いましょう。授業の予習復習はもちろんのこと、英字新聞の切抜きや、街で出会った単語など、とにかく英語に関わることはすべてここに落とし込むのです。「○月○日:今日はシャドウィングを15分やった。まだまだ拾いきれないけれど、明日も頑張ろう!」と日記風に学習記録をつけるのもお勧めです。ノートの長所は、あとになってパラパラとめくって過去を振り返ることができる点。ネットやブログだと「ザッと振り返る」ことは難しいですが、ノートならそれができます。どんどん書き込んで、時々自分の頑張りを振り返りつつ、目標に向けて歩んでいってください。
第5ヵ条 メモ魔になる
 講師は授業中、「ここは試験に出るからノートに書いてください」などとは言いません。通訳現場に出れば何が重要なのかは自分で判断してメモしなければならないのですから、ぜひ授業の段階から「自分で」メモする習慣を身につけましょう。講師のアドバイスや勉強法など、ただ教室の前方を向いて講師の言葉にうなずくだけではいけません。その場ではわかったつもりでも、人間の記憶はあいまいなものなので、吸収するためにはどんどんノートに書くことをお勧めします。
第6ヵ条 疑問点や自分の考えもあえて書き込む
 「これはわからないからあとで質問しよう」とその場では思っても、しばらくたつと忘れてしまうものです。授業中、不明点が出てきたら「?」マークやチェックボックスを書いて、必ず質問するようにしましょう。「先生はこう言ったけれど、私はこう思う」という個人的意見をノートに書いておくのもお勧めです。通訳や翻訳に「唯一絶対の正解」というものは存在しません。100人いれば100通りの解釈があってもおかしくないのです。疑問点や意見はそのままにせず、ぜひ授業で尋ねるようにしましょう。「質問グセ」をつけておけば、デビューしてからも恥ずかしがらずにどんどん聞けるようになります。諺どおり、「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」なのです。
第7ヵ条 他の受講生のパフォーマンスも参考にする
 自分の訳を授業で披露するのは何かと緊張するものです。講師が別の人を指名した際、「あ、良かった、当たらなかった」とホッとしてしまい、他の受講生が訳を述べているとき、つい机に目を落としたりボーっとしたりしていませんか?学校の良いところは、他の訳が沢山聞けることです。ぜひ参考になりそうな訳や使える表現は盗むようにしてください。「盗む」というとネガティブな印象を受けがちですが、同じクラスに在籍して一緒に伸びていくことこそ、大事なのです。遠慮などせず、お互いにより良い訳や表現をどんどんストックできるよう、貪欲に取り組んでいきましょう。
第8ヵ条 講師に遠慮はいらない
 皆さんは高い受講料を払い、貴重な時間を割いて学校に通っているのです。ですから講師から学べることはできる限り吸収してください。「遠慮はいらない」というのは、「妙な気疲れや気後れをしてはならない」という意味です。常識的な大人のやりとりや言葉遣いを大切にして講師と接していけば、様々なことが学べるはずです。「○○を聞いたら嫌われるのでは?」とか「こんな基礎的なことを尋ねたら成績評価に影響が出てしまうかも」といった心配は無用です。現場エピソードやデビュー方法など、聞きたいと思っていることは積極的に聞くようにしましょう。
第9ヵ条 予習復習宿題は必ずやる
 通訳学校は通訳現場と同じです。「時間がなかったから」「仕事が忙しかったから」「出張があったから」など、「できない理由」を探すのは簡単です。でも現場にデビューしたらそうした言い訳は一切通用しないのです。ぜひ学校に在籍している時から、細切れの時間を捻出してでも予習復習や宿題はやり遂げるようにしてください。現役の通訳者の中には子育てや介護をしながら仕事をしている人が少なくありません。そうした中、食事の支度をしながら資料を読んだり、トイレで単語の暗記をしたりしているのです。「できない」のではなく、「やろうとしない」のが問題なのですから、ぜひ「何が何でもやる」という気持ちを持ってください。
第10ヵ条 本当にできる人は勝手に育つ
 「学校にさえ行っていればいつかは通訳者になれる」と思いがちですが、現実はそれほど簡単にはいきません。実力はもちろんですが、気力体力、そして運をつかむ積極性などありとあらゆることが必要になってくるのです。トリンプの吉越浩一郎氏は次のように述べています。
「どんなにいいことを教えても、デキない人はデキません。(中略)
上司や同僚の仕事ぶりを見て、そこから技を盗める社員は確実に伸びていきます。」
(「2分以内で仕事は決断しなさい」かんき出版 2005年)
 つまり受身で待ち受けるのではなく、自らの意思で目標に向かっていくこと。それが授業を受ける上でも必要ということになります。ぜひ皆さんも学校をフルに活用して通訳者になるという夢を実現してくださいね。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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