INTERPRETATION

通訳美人道「2. 通訳美人の手帳術」

柴原早苗

通訳美人道

通訳美人道
通訳者と一口に言っても在宅翻訳や講師業も兼業するなど何かと多忙なのが通訳人生。そこでおすすめなのが手帳のフル活用です。バイブルサイズのシステム手帳にお気に入りのリフィルを揃えてみましょう。便利なのはカレンダー型月間予定表と一日一ページのデイリー・リフィル(一時間毎の目盛り付き)。手帳の前半に月間予定表(12か月分)をはさみ、その後ろにデイリー・リフィルの該当月分を挟み込みます。
 仕事の依頼があったらまずは月間予定表に記入。仮予約もすべて書き込みます。その後同じ内容をデイリー・ページへ転記。該当時間の目盛りの横に書き込み、訪問先の名前や連絡先など、詳しい情報も記入するほか、インターネットの路線時刻表で電車時間も調べて書いておきます。仮予約は「?」マークをつけ、確定したら「?」を消します。一方、キャンセルになったら、書き込んだ内容そのものに横線を引いておきます。
月間とデイリーの併用のメリットは、隙間時間を見渡せること。月間予定表を見れば忙しい週とそうでない週が一目瞭然。仕事の予習やプライベートの予定も組みやすくなります。また、デイリーのページを見ればその日一日の空いた時間も有効活用できることになります。二回記入するのは一見面倒のようですが、逆に手で二回書くことで予定もよりしっかりと頭に入るようになります。
月間予定表の余白にクライアントへの請求金額を書いておきましょう。たとえば「□ 株式会社○○ ¥3万」のように。冒頭に四角いチェックボックスも書いておきます。エージェント経由の場合は送られてきた給与明細書の合計金額のみ余白に記入しましょう。私は月に一度、通帳記帳をして出入金のチェックを行い、入金が確認されたらチェックボックスにチェックを入れています。
その日にやるべきことはどんな些細なことでもデイリーのページに全て書き込みます。掃除、洗濯、夕食作り、電話連絡から勉強内容まで、とにかく書き込みます。こちらもチェックボックス付きで。自分の頭の中に雑然とあった「やらなくちゃ項目」をとりあえず紙に落としこむと頭の中がスッキリします。そして列記した項目を見渡して優先順位をつけていきます。書き出したこと全てを一日にやり遂げるのは不可能ですが、優先順位をつけると急ぎのものとそうでないものがハッキリしてきますし、一日の終わりにチェック済み項目がたくさんあれば、「今日も一日がんばったな~」と充実感を味わえるはず。
フリーランス通訳者の場合、仕事量は季節によりけり。春秋の会議シーズンは息つく間もないほどの慌しさになります。私の場合、「仕事の準備をしないといけないな~」と思う一方、そういうときに限って家中のホコリが気になり出すタイプ。ややもすれば忙しいときほど家事に逃げてしまい、あとで「準備時間が足りない!」と慌てることも。これを防ぐためにも、勉強時間はデイリーのページにしっかりと記入すると良いですね。仕事をがんばったら、自分へのご褒美時間も書いておきます。スポーツクラブでお気に入りのスタジオクラスがあればそれを書いたり、ネイルサロンへ行く時間を書いたりと、自分へのアフターケアもすると次の仕事へのエネルギーになります。
メールの場合、送受信両方の記録がパソコンに残りますが、電話やこちらから送った手紙は手元に残らないため、あえて手帳に記録します。仕事の手紙を送ったら「○○氏へ投函」とメモ。かかってきた重要な電話についてもデイリーのページに「○○氏と打ち合わせ。××について了解。10:30AM」と、電話の時間帯も書いておきます。こうしておけば、後日何かあったときも迅速に対応できます。
忙しい通訳者にとっては仕事の合間のわずかな時間がお買い物時間になることも。そんなとき、お買い物リストを携帯していると便利です。私は無地のリフィルに「買いたいものリスト」「買いたい本リスト」などと見出しをつけ、必要なものを書き込んでいきます。本はネットで買える時代ですが、書店で手にとってパラパラめくり、本当に必要かどうか見極めてから買ったほうが無駄もなくなります。とりあえずリストアップしておいても結局買わないものは自分にとって本当に必要なものではないはず。衝動買いを避けるためにもリストを作っておくと便利です。
システム手帳のカバーにはいくつかポケットがついています。私はそこに切手(80円、50円、20円、10円切手を10枚ずつ)、エアメールシール、そして縮小コピーした郵便料金表を入れています。ビジネスバッグの中に官製はがきとポストカードも常備。仕事の合間にお気に入りのコーヒーショップでお礼状やご無沙汰していた人へハガキを書きます。書簡だと季節の挨拶から書くのでちょっと大変でも、ハガキならすぐ本題に入れるので気楽に書けます。お礼状は迅速なタイミングが一番大事なので、とにかくすぐ出すのがおすすめ。しかも手書きのハガキはインパクト大です。
通訳者にとって便利なのはインクの残量がわかる透明ボールペン。これなら仕事中にメモを取っていてもインク切れに慌てなくて済みますよね。でもせめて手帳関連グッズはこだわってみてはいかがでしょう?システム手帳のバインダーもお気に入りの材質や色を選びます。ちなみに私のバインダー・カラーは元気の出る赤。ペンホルダーには金色のクロスのボールペンを差し込んでいます。ハンドバッグを開けるたびに赤と金のコントラストが際立ち、見ているだけで嬉しくなります。フリーで仕事をするのであれば、きちんとした装いやグッズも重要なポイントに。キャラクターや企業の販促グッズは避けたほうが無難です。私は某民放テレビ局で頂いたボールペンを別の民放で使いそうになり、慌てたことがありました!
日々忙しい仕事に携わっていると、目先の課題をこなすだけで精一杯になってしまいます。でもここで皆さんにとっての夢や目標を考えてみてはいかがでしょう?頭の中で漠然と描いていることも実際に書いてみると、より具体的に見えてきます。たとえば放送通訳者として将来デビューしたいのであれば、無地リフィルの一番上に「5年後には放送通訳者になる!」と書きます。ポイントは具体的な数字を書くことで、夢を数値化すること。5年後=2010年ということがわかったら、ページの左側に上から2010、2009、2008・・・2005と書いていきます。そして年度の横に「自分は何をすべきか」書いてみるのです。「通訳学校に通う」「アナウンス訓練を受ける」など、目標に必要なことを年度ごとに書き出します。そして年度目標に従って、毎年勉強を続けていけば良いのです。ただ何となく「~になりたい」と思うより、積極的な行動をとれるようになるはずです。
今ではパソコンやPDAなど、スケジュール管理のツールがたくさん出ています。でも電池が切れたりフリーズしたり・・・ということを考えると、やはり従来の手帳が便利。手帳の最大の利点は「自分の手で」書いて、手帳のページを「パラパラとめくって見直す」ことで、よりしっかりと内容を頭に叩き込むことができるという点です。「今日は仕事の出来が今ひとつだったなー」と落ち込むような日でも、帰りの電車の中で自分の目標ページを見直すとまた元気が出てきます。
 手帳は単なる日程管理の道具ではありません。皆さんの頭の中を整理し、次なる目標へ導いてくれる相棒であり、エネルギーの元でもあるのです。

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柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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