INTERPRETATION

通訳美人道「8. 通訳美人の英字新聞攻略術」

柴原早苗

通訳美人道

通訳美人道 通訳美人の英字新聞攻略術
第1ヵ条 何のために読むか、まず明確に!
 最近ではネットでニュースを読むことができます。手早く読むには便利ですが、自分の興味ある記事しか読まなくなる、という可能性も。社会人として、また、通訳・翻訳者をめざす人にとって、紙の新聞は欠かせないアイテムです。でもただ漫然と読むだけでは続かなかったり、購読してもたまるばかりだったり。やはり大事なのは何のために読むのかハッキリさせることです。教養のため、英語力増強のため、あるいは一つのテーマを追いかけるためなど、何か自分にとっての目標を見つけてみましょう。
第2ヵ条 あえて駅の売店で買う
 どうしても新聞がたまってしまう場合は駅やコンビニで購入することをオススメします。自宅配達だと、朝、ポストから取り込んだものの、身支度や食事などでなかなか読めない、ということも。でも駅の売店で「わざわざお財布をカバンから出して」買えば、カバンに入れるのも面倒なので、必然的に電車の中で読むことができます。私自身、以前は英字新聞を購読していたのですが、どうしても積ン読になってしまったことがあります。新聞の山を見るたびに読めない自分が敗北しているように思えて逆効果。それで今は割高でも売店であえて買うようにしています。
第3ヵ条 読むときは立って
 新聞を読むときは、立って読むと全体を俯瞰できます。以前は座ってテーブルに広げて読んでいたのですが、そうすると上のほうの記事が自分から遠くなってしまい、結局新聞下段の広告ばかり読んでしまっていたのです。電車内でも家にいるときでも立って読むようにしたところ、読了までの時間も短縮することができました。きっと新聞紙を持って立ち続けるのが面倒に思えるからかもしれませんね。
第4ヵ条 とりあえずすべてのページに目を通す
 私の場合、新聞は「すべての見出し」「少し興味ある記事」「とても興味ある記事」と3段階に分けて読んでいます。とにかく最初のページから読み始め、「すべての見出しと写真」を最後のページまでどんどん読み進めます。その所要時間はおよそ10分。わからない単語があっても読み飛ばしていきます。ここでポイントとなるのは、英字新聞を読み始める前に日本語の新聞を読んでおくこと。そうしておけば日本語で内容をすでに把握しているので、細かいことは理解できなくても「あ、これはイラン核開発のニュースだな」という風に大まかな推測ができます。写真を見るのは、日本語新聞にはないアングルからとらえた報道写真を肌で感じるためです。
第5ヵ条 「少し興味ある記事」の読み方
 すべての見出しと写真を読み終えたら、少し興味ある記事に戻ります。じっくり読むほどではないけれど、何となく自分のアンテナに引っかかったという記事がこれに相当します。このような記事の場合、最初と最後の段落、および本文中の固有名詞や発言の引用部分のみを読みます。これだけでも内容の半分ぐらいは把握できるはずです。ただし、読み進めてみて「やっぱり興味なかった」という場合は無理をせず、読むことをやめます。通訳者にとって時は金なり。自分の興味のないことを無理にやるよりも、読まなければならない仕事用資料などが山ほどあるからです。
第6ヵ条 「とても興味ある記事」の読み方
 「少し興味ある記事」を読み進めるうちに、「あ、これは面白そう」と思ったら、それは自分にとって「とても興味ある記事」ということになります。そのような記事に出会えたときは「今日はラッキー!」と思って、ぜひ最後までじっくりと読んでみましょう。私の場合、語学や企業経営に関することはたいてい「とても興味ある記事」に該当しますが、スポーツや科学、宇宙問題など、普段なじみのない記事も読み進めたら面白かった、ということがあります。それゆえに新聞には新たな発見があるのでしょうね。
第7ヵ条 電子辞書は常に持ち歩く
 電子辞書が誕生する前、先輩通訳者たちは重い辞書を何冊も携帯して仕事場に向かっていたそうです。でも今は薄い電子辞書さえあれば、何でも調べられます。新聞記事を読んでいるときにどうしても気になる単語が出てきたら、ぜひ調べてみましょう。知らない単語すべてを調べるというよりも、キーワードとして調べないと文脈がつかめないという単語に焦点を当てるようにします。大事なのは、わからなかったら「すぐ」調べること。時間があれば調べた単語をノートに書き出しておきます。
第8ヵ条 スクラップそのものを目的としない
 放送通訳という職業柄、以前はテーマ別にスクラップをしていました。たとえば「アメリカ」「核問題」「災害」「選挙」などのようにテーマ別に分けてファイリングしていたのです。デビューしたてのころは、新聞記事や単語リストなどは大いに役立ちましたが、そのうちテーマが重複することに気づきました。たとえば「アメリカ大統領選挙」を「選挙」あるいは「アメリカ」のファイルのどちらに入れてよいか悩むようになってしまったのです。それで複雑になってしまったこともあって、「for the sake of スクラップ」はやめてしまいました。今はネットで過去のニュースも検索できますので、そちらを重宝しています。
第9ヵ条 どうしても残しておきたい記事は?
 私の場合、それでも残しておきたい記事があります。たとえば文章が格調高い記事、自分ならこう考えると反論したい記事などです。そのような記事には余白に日付と新聞名を入れ、切り取ります。切り取る際は30センチのものさしで。記事の横に物差しを当てればきれいに切り取ることができます。ジャーナリストの千葉敦子氏も、ハサミで切るよりも定規で切るほうが早く切り取れると勧めていました。なお、切り抜いた記事は日記帳にノリで貼り付けて保存しています。一方、近々仕事で使う記事は仕事用ノートに挟んでおきます。
第10ヵ条 自分にぴったりの新聞を見つけてみる
 現在日本では数種類の英字新聞が発行されています。よく「オススメはどれですか?」と聞かれるのですが、一通り買ってみて一番しっくり来るものを選ぶのが良いと思います。値段やページ数、連載記事など色々と考慮した上でお気に入りを見つけたら、少なくとも1ヶ月間は読み続けることをお勧めします。そうすることでニュースの流れも把握できますし、何よりも「英字新聞を毎日読む」という習慣づけができるからです。
 
大事なのは「楽しんで続けること」。苦痛になってしまっては逆効果です。無理をせず、自分の興味と直感を大事にしながら新聞を通じて楽しい情報収集を手がけてくださいね。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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