INTERPRETATION

「アメリカの銃問題」

木内 裕也

Written from the mitten

ヴァージニア工科大学で発生した事件は日本でも大きく報道されたようです。また直後に日本国内でも銃による犯罪が起こり、一気に銃問題への関心が高まったのではないでしょうか。そんな背景を元に、今回はアメリカと銃についてお伝えします。

 アメリカ、と聞くと映画やテレビのイメージで警察官が頻繁に発砲しているように思われるかもしれません。しかしニューヨークやロサンゼルスといった大都市に住んでいても、普通に生活をしているだけなら、日本で想像されているほど銃を見かけるものではありません。もちろん、やや治安のよくない地域を訪れれば、事情も変わるでしょう。しかし私が今住んでいるような小さな街では、日本にいるのと変わらない雰囲気です。

 しかしアメリカの特徴は修正憲法第2条で武器の保持と携帯の権利が認められている点です。その権利を有するのが個人であるのか、それとも修正憲法ができた当時の民兵であるのか、解釈で意見が非常に分かれています。しかし多くの日本人が想像している以上に、容易に武器が購入できるのも現実です。書類さえそろえれば、スーパーマーケットや薬局でも購入することができます。1999年の統計(当時のアメリカ人口は2億9400万人)では2億人以上が銃などの武器を所有しているとのこと。3人に1人以上の割合です。普段の生活で目にしなくても、かなりの人が銃を所有していることになります。

 先日のNewsweek誌の情報によると、10万人の内10.08人がアメリカでは銃で命を落とすとされています。フランスが4.93人、フィンランドが4.51人と比較的高いものの、アメリカの半分以下です。スペインは0.75人、イギリスは0.31人、韓国は0.10人と低くなります。日本は0.08人。悲惨な事件が起こりながらも、Newsweekで紹介された中では最低の値でした。この数値をより低くする努力をしなければなりません。

 今回の事件を元に一部の人々の間で頻繁に使われた表現として、symbolic capitalismというものがあります。「シンボル的」資本主義です。2001年に発生した9・11同時多発テロの直後、様々な記念品が販売され、それを購入することでアメリカ人としての誇りや愛国心を示す風潮がありました。貿易センターの描かれたTシャツからキーホルダー、絵本、映画などなど。そのように、ある象徴的なものを利用して物を売り、利益を上げようとする資本主義をsymbolic capitalismと呼びます。ブッシュ大統領が「アメリカ国産の財を消費しよう」と呼びかけたのもその1つの例です。今回の事件でも、同じようなことが起こりました。事件の翌日にはTシャツが発売され、ピンバッジやリボンなどがオンラインだけではなく、街中で見かけることができました。教えている学部の授業にも、そのような記念品を身に着けている学生がいました。そんな学生に、「この記念品は愛国心を示しているのか、それともsymbolic capitalismをあらわしているのか、どちらだろう?」と聞くと、最初は前者だと答えましたが、次第にアメリカで生活する人々の毎日が実は後者に大きく影響されていることに気づいていました。

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記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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