INTERPRETATION

「アメリカの愛国心とその表現」

木内 裕也

Written from the mitten

アメリカにいると、街のあちらこちらで星条旗を見かけます。またテレビでニュースを見ると、命を落とした兵士をナショナルヒーロー、ならびに「愛国者」として扱っています。この様に自分の国に対する愛国精神を持つのは多くの国で一般的ですが、アメリカほどその気持ちを前面に出す国も少ないと思います。そんな事を知り合いの研究者と話をしていたところ、このような姿勢のルーツは、子供の頃に自分の学校に対する愛校心を植えつけることにあるのではないか、という話になりました。

 以前もブログに書きましたが、アメリカの大学にはマスコットがいます。私が数年前にいたBoston Collegeはワシがマスコットでした。今のミシガン州立大学はSpartyというキャラクターがマスコットです。これは大学だけではなく、小学校や中学校でも行われ、キャラクターグッズを販売したり、キャラクターが試合会場に現れたりします。このようなキャラクターと自分の母校やチームを重ねることで、愛校心を植えつけます。その結果、日本の教育機関以上に、特定の学校に対するライバル意識が発生します。

 日本でも早稲田大学と慶應大学、上智大学と南山大学のように、スポーツや学問でライバル色を出している場合もありますが、アメリカではそれが顕著です。ミシガン州立大学(Michigan State University)であれば、ミシガン大学(University of Michigan)が大きなライバルです。Boston CollegeとBoston Universityもライバルですし、ハーバード大学とエール大学のライバル関係も有名です。ある意味では日本のプロ野球の巨人と阪神にも似ていますが、例えばメジャーリーグのボストンとニューヨークのライバル関係はそれとは比較にならないほど強いものです。

 こんな風に、ただ自分の学校やチームを応援するだけではなく、愛校心を前面に押し出すことを小さい頃から教え、絶対に負けるとわかっている中学生の試合であっても、百人以上の観客が試合会場に集まるのがアメリカの特徴です。そうすると自分が生まれ、市民権を持つアメリカという国に対しても同じような感情を持ち、星条旗を掲げ、星条旗をモチーフにしたTシャツを着て、アメリカ人の誇りを口にするのが当たり前になるのです。

 しかし、そんな文化的経験を持っていないアメリカ人以外の研究者は、なぜアメリカ人は自分の誇りといった、個人的な思考をわざわざ人に対して表現しようとするのか、不思議にも感じます。既に述べたとおり、幼い時からそのような教育を受けているのですが、自宅の庭に応援する政治家の小さな看板を出したり、車のバンパーに政治的メッセージのあるシールを貼ったり、自分の信仰を表現する文句の書いてあるTシャツを着たりするのは、アメリカで珍しいことではありません。実際、イギリス出身の研究者の仲間で、なぜこのような個人的な考えをアメリカ人の多くはわざわざ外に向けて表現するのかリサーチしている人もいます。彼の仮説では、多くのアメリカ人は表現しないことに対する不安や恐怖があるのではないか、ということです。日本人的な感覚だと、「わざわざ自分の考えを人に言わなくたっていい」と思ってしまいますが、アメリカ人は、人に自分の考えを伝えないと、誤解されたたり、考えの無い人と思われたりするのではないか、と思うのだろう、という仮説です。彼はかなりこの説に自信を持っているようですが、アメリカを特徴付けるのが、外に向けて表現される愛国心や愛校心です。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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