INTERPRETATION

「竜巻警報」

木内 裕也

Written from the mitten

ミシガン州は意外にも竜巻の被害が大きい地域です。昨年引っ越してくるまで、私も全く知りませんでしたが、秋になると竜巻が発生したり、暴風雨に見舞われることが少なくありません。大学の構内には避難の指示書きがありますし、警報システムも備わっています。車を運転している時に竜巻注意報が発令されてラジオ番組が中断されたり、テレビを見ていると「15チャンネルの竜巻警報を見てください」というメッセージが流れたりすることもあります。大半の場合は注意報が出るだけで、近所で竜巻が発生したり、大きな被害が出るほどの嵐になることはありません。しかし先週の木曜日ばかりは、そうもいきませんでした。

 用事を済ませて18時ごろ車でアパートに戻る途中、高速道路を走っていると、西のほうに大きな黒い雲の塊が見えました。「今夜は雨かなあ。明日はサッカーの審判があるけれど、芝が濡れていないといいなあ。」と思いながら運転していました。そのまま大学構内の図書館に向かい、リサーチで必要な本を数冊借りることにしました。必要な本が全て地下にあったので、窓の無い書庫に向かって20分くらいが経過した頃、サイレンとともに「竜巻警報が発令されました。建物から出ずに、地下に向かうか、トイレなど壁と柱に囲まれた部屋に避難してください。」というメッセージが流れました。すぐに地上階から沢山の人が非難して来ました。中には図書館の近くにいた人も避難してきたようで、突然の雨に見舞われ、ずぶ濡れの人もいました。

 警報は15分間位発令されたままでした。一時解除になって、私は急いで本の貸し出して続きを行い、アパートに戻りました。雨は降っていませんでしたが、道には折れた枝が落ちていたり、大きな水溜りができていたりしました。

 アパートに戻って1時間もしない頃、今度は自治体の警報システムが鳴り始めました。風が吹き始め、21時頃から数時間、サイレンが定期的になっていました。レッドソックスの野球中継を含め、大半のチャンネルは番組が中断され、気象情報が流れました。私は警報の途中で床につきましたが、翌朝外に出てみると、木の枝や色々なものが散乱していました。

審判仲間からのメールが届いたのは、金曜日の朝のことです。Masonという街(私のアパートから10分くらい)に住んでいる共通の審判仲間の家が竜巻の被害にあったとのこと。家から10メートル程度離れた小屋は無事だったそうですが、家の屋根は飛び、壁は崩れ、家財などは殆どが飛ばされてしまった、というメールでした。彼の家族は、メールをくれた友人の家で一晩を過ごしたようですが、片付けなど、是非手伝って欲しい、と書いてありました。20名近いレフェリー仲間が手伝いを申し出ましたが、実際には片付けるものはなく、ただ処分するばかりで人手は足りたそうです。彼も家族も無事であったのが何よりでした。本人からの連絡では、レフェリーグッズは車の中に入れたままで、家は失ったけどレフェリー用具は失わなかったから、土曜日の審判割り当てには向かうとの事。いい気分転換なのかもしれません。

竜巻と聞くと、TVで見るものか、運動会の行われる学校の校庭で渦巻状の風が吹く程度のものでした。しかし実際に警報が発令され、少し離れただけの地域が被害に会うと、意識を改めさせられる気がしました。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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