INTERPRETATION

「審判と通訳の共通点」

木内 裕也

Written from the mitten

 このブログでは私の審判員としての活動や、通訳者としての活動について書いています。今週は両者の共通点について書きたいと思います。フリーの通訳者として仕事をする場合、クライアントから直接案件をいただくこともありますが、多くの場合はエージェントからの連絡を待つことになります。「○月○日の午前中は空いていますか?」という電話連絡を受け、時間的に空いていて内容が対応可能なもののであれば、その案件を引き受けます。逆に別件が入っているとどんなに興味のあるお仕事であっても、断わざるを得ません。エージェントによっては毎月予定表をFAXで送信し、予定を事前に知らせる場合もありますが、FAXの後に新しい案件が入ることも多いですから、電話を受けたときには案件を引き受けられないことも多々あります。

 審判活動もこれに似た点があります。Assignor(割り当て担当者)からの連絡を受けて、試合の会場に向かいます。基本的に自分で審判をする試合を見つけて、会場に向かうことはありません。しかし日本の通訳業界と、アメリカの審判社会の間には大きな違いもあります。

 アメリカではArbiterというオンラインのソフトウエアを使い、常に審判員がスケジュールの更新をしています。何か予定が入れば、Arbiterでその日(もしくは一定の時間)を「割り当て不可能日」として登録します。それにかかる時間は1分程度。割り当てが入ると、メールで連絡が届き、オンラインで割り当てを引き受けます。割り当てを受けられない日や、既に割り当てをもらっている時間は、全ての割り当て担当者が閲覧することができますから、重複した割り当ての依頼が来ることはありません。またArbiter上で試合結果を報告することもできます。これは通訳案件の業務終了報告にも似ています。

 この様なシステムを使っていると、日本の通訳業界でも似たシステムが使えるのではないかと感じます。通訳者のスケジュールサイトを確立させ、常にスケジュールを更新しておけば、「既にその日は予定が入っています」と断らなければならないということはありません。複数のAssignorが同じサイトを使用しているように、複数のエージェントに登録している通訳者にも対応できます。

 夜遅くに「すみません。○月○日、空いていませんか?」と連絡を受けたことが何度もありますが、予定の空いている通訳者を容易に見つけることができるこのシステム、もしかすると日本の通訳業界でも有益かもしれません。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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