INTERPRETATION

「欧州の旅8」

木内 裕也

Written from the mitten

 ヨーロッパ旅行シリーズの最終回です。ベオグラードの次はスロベニアの首都、リュブリャナに向かいました。今回の旅行で最も強く感じたのは、どの街中の様子も似ていること。マクドナルドやスターバックスなどのファーストフードや、様々なアパレルメーカーの名前がどの国でも目に入ってきました。通訳や翻訳の仕事をしていると、常に企業の国際展開がキーワードとなり、新しい市場を求める過程で仕事を行います。またミシガンで教えている授業では、企業や文化がどうグローバル化を推し進め、その影響を受けているかについて講義をしています。しかし実際にどれだけアメリカや西洋文化が多くの国に影響を与えているか体感してみると、その影響力に驚くばかりでした。ブルガリアもセルビアも、グローバル化の影響を多大に受けていました。そんな中で、一番アメリカ化の影響を受けていないように感じたのがリュブリャナでした。外国企業の看板やレストランの数は少なく、街中を歩いているとその他の街とはまったく違う雰囲気でした。写真のようにイタリアに近いだけあり、建物の色など街の全体的な様子はイタリアや南仏に近いともいえます。しかしハーゲンダッツではなく地元のアイスクリーム屋が店舗を構え、バーにはスロベニアのビールが並んでいました。きっとあと数年もすれば、リュブリャナの様子も他の街に似たものとなるのでしょう。その前にこの街を訪れることが出来たのは、非常に幸運でした。

 リュブリャナではちょっとした冒険もありました。旅程の関係で、リュブリャナ入りしたのは早朝。その日の真夜中の電車で、今度はイタリアに移動しなければいけませんでした。したがってリュブリャナでは宿泊先がありませんでした。しかしリュブリャナを歩き回った日は晴天で、とても気温があがりました。「ベニスに移動する前にシャワーを浴びたいなあ」と思い、市内の市民プールや体育館などを回って、シャワー施設を探してみました。しかしそう簡単に見つかるわけでもありません。そんな時に街の中央駅近くにある広場で地図を広げていると、現地の大学生という人が「迷子になったんですか?」と声を掛けてくれました。事情を説明すると、「もし今夜出発するならホテルを取る必要も無いから、私のアパートにきてシャワーを浴びたら?」ということ。彼女の好意を受け、シャワーを浴びることができました。

 リュブリャナからは夜行電車でベニスに向かい、ベニスの空港からフランスへ移動しました。

 今回の旅行で感じたのは、グローバル化の影響だけではなく、英語の重要性もあります。言葉の通じない国でコミュニケーションをしようとした場合、例えば相手が「この人はルーマニア語をしゃべれないらしい」と思うと同時に、英語で話しかけてきます。英語ならわかるだろう、という想定がなされるからです。

 携帯電話の普及も印象に残りました。どの国でも若者は携帯電話を手にしていました。日本ほど携帯電話に依存している国はありませんでしたが、それでも電話で話をするだけではなく、駅や電車の中でメッセージを送受信している様子を頻繁に目にしました。

 ヨーロッパを電車で回る旅(最後は飛行機でしたが)はとても楽しむことができました。次に似た機会がいつあるかわかりませんが、何より観光を終えて、地元のコーヒー屋やバーで現地の人と話をするのがいい経験になりました。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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