INTERPRETATION

「ガソリン」

木内 裕也

Written from the mitten

 日本でも気づけばガソリンの値段が上昇している、という日が続いているようですが、アメリカでも同様です。もちろん日本のほうがガソリン価格は高いのですが、安いガソリンに慣れているアメリカ人にとっては、日本から見れば安い価格も、信じられない価格です。たった数年前まで、1ガロン(約3.8リットル)が1ドル50セント〜1ドル60セントでした。それが今では3倍近い金額になっています。

 ここ数週間で少し価格が下がり、今は1ガロンあたり3ドル70セント〜3ドル80セントがミシガン州の相場です。しかし約1ヶ月前は4ドル20セント近くまで上昇しました。州によっては4ドル50セント程度の場所もあったようです。私はそれほど長い間アメリカにいるわけではありませんが、それでも20ドルで十分ガソリンが満タンになったのを覚えています。それが今では50ドルあっても足りません。

 ガソリン価格の高騰は、色々な影響を及ぼしています。もちろん休暇を取りやめたり、飛行機運賃が上昇したりといった、よく耳にすることもあります。しかし私の生活の中で気づいたこともあります。例えば審判手当て。大きな大会に招聘されると交通費が別に支給されますが、州の中で行われる大会に割り当てられた場合、審判手当てが出るだけで、交通費は支給されません。時には片道200キロも走って試合に向かうこともあります。私の車は燃費がよいといっても、往復400キロ走れば、15ガロン近くのガソリンを消費します。するとそれだけで約50ドル。もしも試合の手当てが70ドルなら、移動時間、試合時間などを考えると半日拘束されても手元に20ドル残らないことになります。そんな影響で、今年の夏から多くのサッカーリーグが審判手当てを引き上げました。

 Car Poolingも人気です。同じ目的地に向かう人が集まり、一緒の車で移動してガソリン代を分割する方法。車1台に1人しか乗っていないのは無駄だからです。ただ「排気ガスを減らすためにカープールしよう」というよりも、「ガソリン代を節約するために」という目的の人がほとんどのようです。大気汚染が騒がれていた時にカープールをしていた人は僅かでしたが、ガソリン代が高騰し始めると、途端にカープールが人気になりました。専門のインターネットサイトも開設されています。アメリカでは高速道路の出入り口近くにPark and Rideと呼ばれる駐車場が設置されています。そこに車をとめ、他の人とカープールできるようになっているのです。私も友達とどこかに行く場合は「I-96号線の110番出口にあるPark and Rideに11時に集ろう」という風によく利用します。

 友人はトヨタのプリウスを購入しました。燃費が良いと評判で、明らかに最近はよく目にする車の1つです。今は注文しても数ヶ月手元に届かないほどの人気だそうです。

 ガソリン価格の高騰の影響で、支払いをせずに給油だけする人も増えているとか。多くの場合はセルフサービスで給油します。クレジットカードを使用する場合は、最初にカードを挿入して給油しますが、現金払いの場合は給油後に店舗内に向かい、支払いをします(事前に例えば20ドル払って、その分だけ給することも可能ですが)。したがって、現金払いを装って給油し、支払わずに帰ってしまうのです。もちろんカメラが設置してありますからつかまる場合がほとんどのようですが、逃げられてしまう分のリスクも加味して、ガソリン代が設定されているとの事。

 私の友人は数年前にどこかの石油企業に投資をして、成功したようです。数ヶ月前にマンハッタンにアパートを購入したといっていました。しかし多くの人にとっては、今後もガソリン価格を気にする日々が続きそうです。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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