INTERPRETATION

「就職活動」

木内裕也

Written from the mitten

 この時期になると、アメリカのアカデミア(学会)では就職活動の時期です。来年の春に博士号を取得する学生や、新しい研究機関を探す研究者が、仕事を探します。来年の5月にPh.D.を取得する予定の私も、来年の9月から教える研究機関を探しているところです。

 アメリカ研究の分野では毎年100人から120人の新しい博士号取得者が生まれます。ここ数年間の流れをみると、その中でTenure Trackと呼ばれる終身雇用契約につながる雇用形態で契約できるのはその中でも10人から20人弱。それ以外の人は大学以外の研究機関と契約を結んだり、1年契約で大学と契約を結んだりと、不安定な雇用環境のなかで、翌年に再度研究機関を探すことになります。私が所属するミシガン州立大学では、2年前に2人の新規博士号取得者がいました。その時は2人とも終身雇用契約を手にしました。しかし昨年は3名の卒業者のうち、1人も就寝雇用契約にはたどり着きませんでした。2年前の2人は、それぞれ契約を結んだ大学に知り合いがいたことを考えると、終身雇用につながる約15%の枠に入るのはなかなか簡単ではありません。

 アメリカ研究の分野では、コミュニケーション学、歴史、文学など、専門分野をすこし広げた分野でも雇用機会があるのが助かるところ。しかし1人あたり少なくても30校、平均では50校位に選考用の書類を送ります。運よく書類選考が通ると、実際にその大学から招待を受けます。そこで面接や模擬授業などを数回行い、契約につながります。

 選考用の書類は、Cover Letterと呼ばれる手紙があります。1ページから2ページの手紙の中で、自分の研究内容、授業方針、これまでの研究成果などをまとめます。Statement of Teaching Philosophyと呼ばれる文章では、自分なりの授業方針を詳しく述べます。Statement of Current and Future Research Plansでは現在の研究内容と、今後の研究予定を述べます。履歴書では、学会での発表、学術誌などでの掲載記事などを細かくリスト化します。ビジネスの世界では1ページか2ページにまとめるのが通例ですが、アカデミアではあらゆる功績をリストしますから、私の履歴書でも7ページがぎっしりと埋まっています。Writing Sampleは30ページ程度の論文を送ります。アメリカ研究では論文を書くことで研究の成果につながります。Publish or Perishと言われるとおり、書く力がないと生き残れません。もちろん推薦書も重要です。通常は3通の推薦状が必要です。インディアナ大学などは6通の推薦状を求めます。

 大学によってはそれ以外の書類を求めることもありますが、これらの文章をまとめ、運を天に任せる気持ちで書類を送ります。職を求める研究者の数が、研究者を求める研究機関の数の10倍位あるわけですから、なかなか難しいプロセスです。また19世紀のアメリカ史に焦点を当てている研究機関に、20世紀や18世紀を専門とする研究者の居場所はありません。そう考えると、自分の専門分野をもとめる研究機関がタイミングよく現れることも必要です。

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木内裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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