INTERPRETATION

「博士論文最終原稿の提出」

木内 裕也

Written from the mitten

 4月17日の博士論文口答試験まで3週間を切りました。ミシガン大学のアメリカ研究では口答試験日の3週間前までに論文の最終原稿を指導教授の4名に提出することになっています。私も約500ページの博士論文を無事に提出してきました。自分が手元に置いておくためのコピーを含めて5セットの印刷ですから、印刷だけにも時間が掛かります。自宅のレーザープリンターを使うよりも、研究室のものを使ったほうが早いので、提出日の朝早くにオフィスへ向い、印刷とファイリングを行いました。手に持つとずっしりとした重さを感じ、非常に大きな達成感でした。

 印刷を行う前には、できるだけスペルミスなどを減らすために何度も読み返しました。しかし例えば第1章などは2年近く前に書いたものですから、これまで20回以上読み返しています。内容をあまりに把握しすぎて、ミスをどうしても読み飛ばしてしまうことがあります。そこで仲のいい友達数人にお願いをして、1人1章ずつ最終確認で読んでもらいました。それによっていくつかのスペルミスや文法ミスが見つかりました。

 最終原稿を印刷する前の確認段階で一番苦労したのは脚注です。私はChicago Styleと呼ばれるスタイルを使用して論文を書きました。この博士論文には約900の脚注や出典情報があります。それらを1つ1つ読み返し、正しい情報が書かれているか確認をしなければなりませんでした。これだけで約1週間を要しました。例えば簡単な例ではある本を引用した場合、脚注ではJoseph E. Stiglitz, Globalization and Its Discontents (New York: W. W. Norton and Company, 2002).という風に引用します。しかし引用書籍の一覧では、Stiglitz, Joseph E. Globalization and Its Discontents. New York: W. W. Norton and Company, 2002.と書きます。筆者の名前の順番が変わり、括弧が外されます。一般的な書籍の場合はこのように少しの変更で済みますが、博士論文となれば公文書室に保管されている史料や資料、インタビュー、手紙など様々な情報を引用しています。それらが指定されたスタイルで記載されているかを1つずつ確認しなければなりません。また、博士論文はマイクロフィルムとしても保管されます。その際フォントサイズが10よりも小さいと、文字がつぶれてしまいます。そのため、脚注番号などを含めて、あらゆる文字や数字はフォントサイズ10よりも大きくなければなりません。しかしMicrosoft Wordの設定では脚注番号が10よりも小さく設定されており、それを変えるには1つずつサイズの変更を行わなければなりません。その手間を少し減らす方法を見つけはしましたが、約900もある脚注1つ1つの番号をフォントサイズ変更するのはやはり時間が掛かりました。このように、2月と3月は実際に論文を書くという作業ではなく、内容の確認やフォーマットの変更などに時間を費やしました。

 論文を提出した今、これ以上論文に変更を加えることは許されていません。最終的には書籍として出版されますから、そのための変更は許されていますが、博士論文としての論文は先日提出したものが今のところは最終版です。17日に口答試験を行い、そこで与えられたフィードバックを元に少し変更を加えますが、3年間に渡って書いてきた博士論文が、今度は3週間に渡って手を加えられないということが、何か不思議な感覚を引き起こします。

Written by

記事を書いた人

木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

END