INTERPRETATION

試合前の打ち合わせ

木内 裕也

オリンピック通訳

スポーツイベントの通訳と聞くと、試合後のインタビューなどを想像しがちですが、試合前にも非常に重要な役割があります。それがMatch coordination meetingなどといわれる、試合前の打ち合わせ。

例えばサッカーで言えば、試合開始の1時間前とか、1時間半前など、所定の時間に関係者が集まって会議を行います。時にはそこに通訳者が同席することもあります。多くの場合はチーム付きの通訳者がそのような会議には向かうことになるでしょう。

会議自体は短時間で終わることが多いです。その会議でカバーされる内容には、例えばタイムスケジュールの確認があります。試合を行うピッチ上でのウォーミングアップは何時何分から、何時何分迄行えるか、細かく指定されています。選手入場の時間もそこでは確認を行い、入場を予定時間通りに行うには、何時何分に各チームのロッカーから退出する必要があるのかも確認します。「時計合わせ」といって、試合の責任者と各チームの代表者、また審判員などで時刻を確認します。それによって、「時計が遅れていて、まだ試合開始まであと1分あると思っていました。」などというトラブルを避けることができます。

スケジュール以外にも、各チームのユニホームの色も、基本的には事前に調整が図られているとはいえ、念のために確認する必要があります。また試合開始前にどのようなセレモニーが行われるのか(国歌斉唱、花束贈呈など)、ハーフタイム中にファンに対してどのようなイベントが行われるのか(歌手などのパフォーマンスがあることも多いです)といった試合とは直接関係のない内容も打ち合わせされます。

また、試合が終われば、どのようなインタビューがどこで行われるのかも確認します。勝ったチームからのインタビューなのか、それとも負けたチームからなのか。インタビューは各チーム何名か。そしてどこで行われるのか。また試合後のクールダウンはどこで行うのか(もちろん、試合前のウォーミングアップも、ピッチ上で行える前には室内のどこで行えるのかを打ち合わせします)。ロジスティックスと呼ばれる内容を細かく確認します。

通訳者にとって、このような場での業務は必ずしも難しくはありません。何度か経験をすれば、どの会場に行っても、同じ競技であれば同じような内容が話し合われます。また、基本的には資料もあります。「それでは資料に沿ってお話をしたいと思います」というのが一般的な流れ。ただ、気持ちの準備という点からは、必ずしも競技に直接関係のない内容も話に上がることを理解しておくとよいでしょう。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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