INTERPRETATION

自主教材、飴とムチで長続き!

上谷覚志

やりなおし!英語道場

先週はサイトラをcomprehensionとlisteningという観点から書いてみました。今週は実際にどういうものを使ってサイトラの練習をしていけばいいのかという話をしていきたいと思います。

もちろん、英語・日本語の文章であれば、映画やドラマのスクリプトであれ、小説であれ、記事であれ、なんでも教材になります。栄養のバランスを考えるように、語学学習もいろいろなものを読んだ方が対応できる範囲が広がりますので、ご自身の苦手分野と得意分野をそれぞれ選んでその二つを交互に教材に使っていくのがいいと思います。いわゆる飴とムチですね。

例えば海外経験があまりなく、ちょっとした日常会話になると耳が固まってしまうという方は、海外TVドラマや映画のスクリプトをサイトラで読破することで、カジュアルな表現や文化背景、言葉の掛け合いのコツを吸収することができます。その後で仕上げとして、DVDを見て文字の知識と音声を関連付けると音声に対する許容範囲が広がり、リスニング力もアップするので一石二鳥です。 DVDを何度も見るというのも悪くはありませんが、時間が本当に有り余っている人以外は、スクリプトから入る方が効率的だと思います。

それ以外にもファッション雑誌、趣味に関する本もいいし、特にお勧めなのがいわゆるタブロイドです。今ならパリス・ヒルトンが一面を飾っているのかもしれませんが、日常会話やカジュアルな会話に対応できるようになりたい、海外経験がないことを何とかカバーしたい人にはこういう方法をお勧めします。

通訳学校では政治や経済やビジネス中心の教材になりますので、自宅での学習ではこういうやわらかめの内容で楽しみながらバランスをとることも重要だと思います。通訳者でも非常にテクニカルな内容は顔色変えずにスラスラと訳していたのに、ちょっとカジュアルな内容になると急に崩れてしまった方がいらっしゃいましたし、優秀な方でも英語ネイティブの何気ない会話は避けたいとおっしゃる方もいらっしゃいますので、訓練の中にこういう内容のものを飴として取り入れることはいいと思います。

さて真面目な教材に関してですが、私がよくお勧めするのが首相官邸のサイト(http://www.kantei.go.jp/)やその他の官庁のサイトです。そこから首相や大臣のスピーチをダウンロードします。理由はいくつかあって、日本語のスピーチに対してかなり原文に忠実な英訳が付いているからです。他のサイトだと「ここが知りたい!」という部分の訳が飛ばされていたり、意訳されていて自分の訳が合っているかどうかわからないというもどかしさを感じることがあると思います。しかし政府系サイトであれば、かなり直訳に近い訳が出されているので、訳語を参照するには都合がいいのと、新聞等には及びませんが時事用語も比較的早い段階で訳語が出ていることが多いので、訳語が確認できるというメリットもあります。それ以外にも「〜する所存です」とか「邁進してまいります」等日本語的な表現も多く使われていて、それに対する訳語もきっちり出されているので、日本語の語彙や表現を増やすというメリットもあります。一度日本語と英語両方のスピーチをダウンロードして教材として使用してみてください。

それ以外にはNikkei Weeklyもお勧めです。理由は日本の事象が幅広く取り上げられており、日本のトレンド情報をかなり入手できるということ、日経新聞の記事で対訳もある程度は探せるので内容の確認がとりやすいことがあります。

日刊の英字新聞を購読されたことがある方ならご理解いただけると思いますが、読んでない新聞が毎日溜まっていくことほどストレスになることはありませんので、そういう意味でも週刊紙ということでじっくりと読めるという安心感と達成感があるという理由もあります。もちろんこれ以外の英字雑誌や新聞や専門誌でも構いません。

自主学習する場合、理想は英日両方揃っていて、自分の訳や理解が正しいのかどうかを確認できる教材がいいと思います。ただ最初慣れるまでは学校等でプロセスをしっかり練習してください。

ではいよいよ来週は2006 年に安部総理が行ったスピーチを使ってサイトラの訳をつけてみましょう!ここにその一部を載せておきますので、来週までに自分でサイトラをしてみてください。それではまた来週!

I stand before you here having been appointed as Japan’s 90th Prime Minister. I will now set forth my vision and policies of this Cabinet. I am the first Japanese Prime Minister born in the postwar years and under the coalition government of the Liberal Democratic Party (LDP) and the New Komeito Party, I will exercise leadership with courage. I will make Japan a country filled with vitality, opportunity, and compassion. Today marks a bold beginning toward my initiative to build a new country. I have no intention of conducting governance for the benefit of specific organizations, those with specific vested interests, or those with specific views. Instead, I will conduct governance with strong determination on behalf of the entire people, the ordinary people who live by the sweat of their brows, love their families, wish to improve their own communities, and who want to believe in the future of Japan. That is why today I have formed a “Cabinet for the creation of a beautiful country.”

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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