INTERPRETATION

通訳者のつぶやき・・・ブツブツ

上谷覚志

やりなおし!英語道場

先週、2006 年に安倍総理が行ったスピーチを使ってサイトラの訳をつけてみましょう!とお願いしましたが、どうでしたか?これからサイトラ訳と日本語の原文をご紹介していきますが、読んだ印象は違うと思います。サイトラは内容を理解するために、意味を出てきた順番で訳出していくのに対し、原文は日本語としていかに自然かということに主眼が置かれているためです。面白いことに、翻訳者が行う翻訳と通訳者が行う翻訳は通常スタイルが全く違い、翻訳者はここに挙げた原文に近い翻訳に仕上げるのに対し、通訳者は時間の制約から普段前から前から訳し下げているので、翻訳スタイルも前からどんどん訳していくケースが多く、翻訳を読めば翻訳者が訳したのか通訳者が訳したのか大抵判断できます。通常は原文をサイトラ的に理解し、その後より洗練された日本語にする必要がある場合のみ、翻訳者的翻訳にまで練り上げていけばいいでしょうし、内容を理解し口頭で伝えるということが主たる目的であれば、基本的にはサイトラ訳で十分だと思います。

通常サイトラの場合、意味が切れるところでスラッシュを入れていきますが、今回は意味が切れるところで段落を変えてみました。赤で示したところは私がこの英語を読んだ場合、どういう風に頭の中でのブツブツ独り言処理を示してみました。

(原文) 第90代内閣総理大臣を拝命いたしました、安倍晋三です。どうぞよろしくお願いいたします。私は、自由民主党・公明党連立政権の下、戦後生まれ初の総理大臣として、しっかりと正しい方向にリーダーシップを発揮してまいります。日本を活力とチャンスと優しさに満ちあふれた国にしてまいります。本日より、新しい国づくりに向けてしっかりとスタートしてまいります。私は、特定の団体、特定の既得権を持った人たち、あるいはまた特定の考え方を持つ人たちのための政治を行うつもりはありません。毎日、額に汗して働き、家族を愛し、地域をよくしたいと願っている。そして日本の未来を信じたいと考えている普通の人たち、すべての国民の皆様のための政治をしっかりと行ってまいります。そのために、本日、「美しい国創り内閣」を組織いたしました。

(サイトラ訳)

I stand before you here皆様のいるこの場で

having been appointed 任命を受けました

as Japan’s 90th Prime Minister.第90代内閣総理大臣として

I will now set forthこれから示していきたいのが→何を示すのかな?

my vision and policies of this Cabinet私のビジョンとこの内閣の政策についてであります→ビジョンと政策を示していくんだ、なるほど

I am the first Japanese Prime Minister/私は初代の内閣総理大臣であります→初代??これまでいっぱい総理大臣いたよね??まあもう少し読んでいくか。

born in the postwar years→戦後に生まれの→あ〜戦後初めての総理ってことか!納得まだandでつながってる次は何だろ・・・

and under the coalition government of the Liberal Democratic Party (LDP) and the New Komeito Party, 連立政権の下、つまり自民党と公明党からなるわけですが→連立がどうした?

I will exercise leadership with courage. (連立政権下で)勇気を持ってリーダーシップを発揮していきます→あ〜連立で頑張っていきますっていうことだね。

I will make Japan a country 私は日本を次のような国にしたいと思っています→日本をどうしたいんだろう?よくわからないな

filled with vitality, opportunity, and compassion/活力、チャンスそして思いやりに溢れる国です→なるほど生き生きした優しい人がいっぱいいる国にしたいってことか、ふんふん。

Today marks a bold beginning 今日は大きな一歩であり→大きな一歩としてみたけど、何かが始まっていくんだよね・・・たぶん

toward my initiative 私が目指す目標に向かい進んでいきます→なるほど自分がやろうと思っていること(initiative)を始めていくっていうことか、でも何を始める?

to build a new country新しい国を作ることなのです→新しい国を創造したいってことか。

I have no intention 全く行うつもりはありません→何いきなり!何をやらないのか次にでてくるのかな?of conducting governance 政治を行うことを→政治を行わない?首相なのにやる気なし?もう少し読まないと・・・ちょっと混乱。

for the benefit of specific organizations, 特定の団体の利益のためには

those with specific vested interests, 特定の利害関係者のためには

or those with specific views. 特定に考えを持つ人のためには→なるほど!こういう人や団体のための政治はやらないっていうことか、納得!

Instead, I will conduct governance そうではなく、私が政治を行います→まあ政治家だし当たり前か。もう少し情報あるかも

with strong determination 強い意志を持って

on behalf of the entire people, 国民全体のために。

the ordinary people一般の人のために

who live by the sweat of their brows, 額に汗し生き

love their families, 家族を愛し

wish to improve their own communities, 自分たちの社会を良くしたいと望み

and who want to believe in the future of Japan. 日本の将来を信じたいと思っている国民のために→なるほどこういう真面目に生きている人たちのために政治をするということを言いたいんだ。

That is why today ですから今日

I have formed a “Cabinet 組閣いたしました

for the creation of a beautiful country.” 美しい国を作るために

いかがでしょうか?オリジナルと比べるとどうしても日本語としてはぎこちないですが、意味としては十分理解できると思います。赤で示した独り言と合わせて読んでいただくと前から出てきた情報をいかに後ろにつなげ、最終的に意味を確定していく様子がご理解いただけたのではないかと思います。乱暴な言い方をすれば、このサイトラ訳をこのまま声に出すと同時通訳になります。ですから通訳をするにせよ、正しく英語を理解するにせよ、このサイトラ理解が基本となるのです。サイトラはどのような英語にも使用できますが、一人でやると自己流の訳になりがちですので、最初は授業の中で正しいサイトラのやり方を学んでから自分で練習するようにしてください。それではまた来週!

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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