INTERPRETATION

通訳者のつぶやき・・・ブツブツ

上谷覚志

やりなおし!英語道場

このコラムも今回で早いもので6回目になりました。何通か質問のメールも頂くようになりうれしい限りです!特に高校生の方からメールを頂き、こんな若い方も読んでくれているのかと思うとしっかりと書かないと・・・と気合いも入りますね。

前回までは英語/通訳の練習方法(サイトラ)の話をずっとしてきましたが、折角質問メールを頂いたので代表的な内容で他の方にも参考になると思われる質問を取り上げてみたいと思います。勉強方法以外で多かったのがどの通訳学校がいいか?というものでした。

私自身が、大阪で通訳学校に一年間通った後、海外の大学院で2年間通訳訓練を受けた生徒としての経験と通訳学校の講師として教えている経験を含めてコメントしたいと思います。

通訳学校に行く理由は大きく分けて二つあると思います。

一つは通訳技術を学ぶということ、もうひとつは、エージェント系の通訳学校に行くことによってコネクションを作って将来的な仕事に結び付けたいということだと思います。

前者(通訳技術を学ぶ)に関しては、国内の通訳学校であればそれほど大きな差はないような気がします。最近の傾向として、会議通訳コースだけではなく、人気のビジネス通訳を重視したコースに力を入れている学校も出てきており、差別化を図ろうとしているようです。ただ実際に生徒さんが学校を比較してどっちが良い悪いという話をする場合の多くは、「いい講師に当たったかどうか」と「事務局の対応が良かったかどうか」で判断しているようです。この場合、今その学校に通っている生徒さんから情報を得たり、いろいろな学校の体験講座に出席し、実際に授業を受けてみて、自分に合った学校を選ぶことをお勧めします。ただ一度学校を決めたら、どうしても講師の指導法が我慢できないときを除き、「進級できないから別の学校に代えよう!」というネガティブ思考にならずに何が自分に足りないのかなど講師からの指摘を謙虚に受け止め、勉強を続けることが結局早く通訳者になる方法だと思います。

海外の大学院で勉強する場合、(私が卒業したオーストラリアの大学院を例に取ると)最大のメリットは2年近くというまとまった時間を通訳訓練だけに使えるということと、日英の講師がオーストラリア人の会議通訳者なので、日英に関してかなり丁寧に指導を受けられることやクラスメイトに英語ネイティブがいて表現等を学べることだと思います。ただ、全てがいいかというとそうでもなく、特に教材の面では日本の方がはるかに細やかだし、内容も日本の市場にあったものを練習でき、英日の要求されるレベルも日本の通訳学校の方が高い気がします。

それから修士号やオーストラリアの会議通訳の国家資格を(合格すれば)取れるというメリットを期待される方もいますが、残念ながら日本で通訳者として仕事をする場合、ほとんど役には立ちません。結局、通訳という仕事自体、資格や学歴ではなく、実績と実力のみが評価されるからでしょう。通訳スキルを身につけるというだけであれば、何百万も払わなくても日本の通訳学校で十分だと思いますが、それ以外の目標や目的がしっかりあるのであれば価値のある投資になるとは思います。

後者の理由(エージェントとのコネクション作り)ですが、よく先輩通訳の方に「昔は学校で勉強している時から、エージェントからOJTの仕事をもらったり、放送通訳が始まったころは大量の通訳が放送通訳で必要となり、生徒でも仕事の機会が与えられた」という話を聞きます。もちろん今でも本当に優秀な人には講師推薦という形で仕事の機会が与えられることはあると思いますが、昔とは状況が違い、その学校の一番上のクラスまで行ってやっと、エージェントから通訳の仕事を紹介してもらえる可能性が出てくるという感じだと思います。TOEIC900点をちょっと超える程度であれば通常、通訳クラスの一番下あたりから始めることになるので、卒業までとなると順調に行っても2年半〜3年はかかってしまいます。学校を卒業しないと通訳者になれないわけではないので、他の通訳者の紹介などから通訳学校を持たないエージェントも含め、自分の実力に応じて登録して仕事をもらえることもあります。ただし、先ほども述べたとおり、通訳は実績と実力がものを言う世界なので、はじめからフリーを目指さずに社内通訳や翻訳を経験して実績を積むこともひとつの方法です。

私は、いつも授業中やカウンセリングの時に生徒さんに言うのですが、通訳という仕事は、基本自営業だと思います。学校に最後まで育ててもらって仕事までずっと世話してもらうというようなサラリーマン的な考え方ではなくて、常に自分の市場価値を意識しながら、いつマーケットに飛び込み、その後どのようなキャリアパスを歩み、どのように自分をプロデュースしていくかを考えていく姿勢が大切だと思います。

今回は、学校の選び方についての私見を書かせていただきました。通訳という職業が資格を必要としない分、通訳者になる方法もいろいろあると思います。学校にいかずに通訳になった方もいらっしゃいますし、今自分に何が必要なのかを常に考え学校を選んでいくことが重要ではないかと思います。それではまた来週!

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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