INTERPRETATION

OJTのすゝめ

上谷覚志

やりなおし!英語道場

本当に暑い日が続きますが、皆さんお元気ですか?ひょっとしたら既にお休みを取られている方もいるかもしれませんね。8月は通訳の仕事がスローになるので、私も普段できないことをまとめてやったり、ゆっくり過ごしています。

さて今回はあるエージェントのコーディネーターの方と話しをして感じたことについて書いてみたいと思います。それは・・・通訳学校のクラスレベルについてです。そのコーディネーターの方の話を簡単にまとめると以下のようになります。

・ 最近、登録時に、通っている学校のクラスレベルや在籍年数、資格等を気にする人が多い。

・ 一般的に、エージェントではスキルチェックを行っており、実際に現場に出れば学校のレベルは関係ない。ある程度の期間学校に通ったら、現場に出ることを考えたほうがいいと思う。

・ どのクラスに入れば登録できるかという質問をされることもあるが、秘書兼通訳やアテンド通訳等その方のレベルにあった仕事を紹介しているので、まずは登録をしていただくことと、登録時には通訳になりたい気持ちをしっかりアピールしていただければエージェントにも伝わる。

普段通訳クラスで教えているため、生徒の方から同じような質問をよく受けます。私の場合は、日本の通訳学校に一年間いましたが、途中からオーストラリアの大学院に行ってしまい、通訳学校途中で仕事を探すという経験がなかったので、最初はこういった質問にちょっと戸惑いました。授業の中やカウンセリングでも、進級にこだわりすぎないようにとは言うのですが、やはり上に上がって最終的には卒業して、通訳になるというキャリアプランを考えている方が多いのも事実です。

よく考えていただければわかると思いますが、通訳学校が大きくなっていく中で、自然発生的にこのようなクラスレベルが細分化されてきただけで、マーケットにある仕事のレベルを反映してクラスが設定された訳ではありませんし、卒業しないと通訳技術が身につかないというわけでもありません。ある程度の基本スキルは当然身につけないと仕事はできませんが、それを通訳学校だけで学ぶというのも現実問題かなり難しいと思います。どうしてもクラス内でのトレーニングでは、スピーカーをコントロールしたり、事前の情報収集や準備のやり方、ブリーフィングでの質問の仕方等を学ぶことができません。

理想的なのは2〜3期くらい通訳スキルの基礎を学んで、その間しっかりと英語力の強化も図り、その後、エージェントに登録に行きスキルチェックを受けて今の自分の力を客観的に評価し、できる仕事から始めることだと思います。そうすると今の自分に何が足りないのかがよくわかり、それからまた学校に戻り、スキルアップを図るというのがいいと個人的には思います。そうするとこれまで、ぼんやりやっていた練習の意味が急に明確になり、練習の質も上がってきます。

以前の学校の選び方について書いたコラムで、“通訳という仕事は基本自営業で、学校に育てて仕事まで面倒見てもらうというサラリーマン的な考えではなく、いつマーケットに飛び込み、その後どのようなキャリアパスを歩むのかを自分でプロデュースしていく姿勢が大切だと思います”と書きました。通訳という仕事は実力と実績だけの仕事だと本当に思います。結局、見られるのは通訳ができるかどうかであって、どこの通訳学校のどのクラスにいるとか、どこを卒業したとかはどうでもいいことで、そういうことに固執するよりは、いかにアピールできるような実績を積み、その過程で実力も上げていくことに焦点を当てることが大切だと思います。

ちょっと話が変わりますが、電車や街中で高校生が最近受けた模試の偏差値や大学のランキングの話を熱っぽく語っているのを聞いて、そういえば自分も高3の時はそうだったなと懐かしく思うことがあります。同時に今思うと、なぜそこまで偏差値や大学ランキングにこだわったんだろう?って思うこともあります。恐らく当時は自分の狭い世界の中で、あれが一番大切な尺度で、自分のポジションを確認し、ある意味安心していたのかもしれません。もちろん今はあの尺度が大切だとは思いませんが・・・。この尺度って通訳学校のクラスレベルと似ていると思います。学校の中で自分がどこにいるのかを知るために便利だし、頑張って上に上がれば自信にもつながります。ただ模試の偏差値や大学のランキングが実社会でその人の能力を測る尺度には使われないのと同じように、クラスレベルや通訳学校の名前も世間一般からするとよくわからないものなので、そこにあまりにもこだわりすぎると、大きな回り道になるかもしれません。それよりも今の自分でもできる形で、現場で学ぶ機会を持つことを考えて欲しいと思います。

最後に、通訳という仕事は常に勉強を伴います。いくら通訳訓練を受けてもこれで大丈夫!ということはありません。やればやるほど自分の力不足を感じるものです。まだまだ勉強が足りないと謙虚になることも大切ですが、それが現場に飛び込むまたはエージェントに登録に行くことを先延ばしにする口実になっていないかどうか一度自問してもいいかもしれません。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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