INTERPRETATION

逐次<同通・ウィスパリング???

上谷覚志

やりなおし!英語道場

こんにちは。この夏の暑さで週末から体調を崩し、救急病院に行き、急性腸炎と診断されてしまいました。知人でこの病気になった人がいたのですが、実際になってみてこんなにも簡単に寝込んでしまうのかとびっくりしました。今週の通訳の仕事を他の方に代わって頂き、このコラムの提出期限も大幅に遅れ、多くの方にご迷惑をかけてしまいました。本当にごめんなさい!

(他の仕事もそうですが)通訳は本当に体が資本の仕事だとつくづく思い知らされました。少し体調が回復して、これならできるかなと思ってちょっと資料を読み、音読したりサイトラしたりしてみましたが、体調が完全でないため長時間つづけることはできませんでした。体調が悪いと思考力やリテンションも大幅に低下してしまいますね。代わっていただいた仕事がテクニカルなITの同通と経営者会議でのウィスパリングだったのですが、無理をして仕事に行き関係者の方にご迷惑をかけるよりは他の方にお願いしたほうがいいと判断しました。

最近は逐次の仕事の数よりも同通やウィスパリングの形態の仕事が増え、以前のような逐次だけという仕事の数は減ってきているような気がします。通訳訓練を受けていた頃や通訳を始めたばかりの頃は、逐次の延長線上に同通があり、逐次の仕事よりも同通の仕事の方が難しいと思っていました。そう思っている方も多いのではないでしょうか?

確かに、時間的制約が厳しい同通の方が難しい場合も多いですし、逐次だったら出ていたかもしれない訳語が同通だったために英語のまま出してしまったということもありますので、瞬時に訳していくという制約は通訳者にとってかなりのプレッシャーになると思います。同じことがウィスパリングにも言えますが、ウィスパリングの場合は、生音を自分の耳で聞きながら、耳元で通訳するわけですから条件的には同通よりもさらに厳しくなります。

ただ逐次<同通・ウィスパリングかというとそうでもないと思います。特に内容がテクニカルな専門用語や略語が頻発するような内容であれば、聞いたまま流していける同通やウィスパリングの方が楽な場合もあります。こういう内容を逐次でやるとメモには見知らぬ暗号のような文字がつらつらと並んでいて冷や汗がたらーっと流れることもよくあります(笑)。経験者ならおわかりだと思いますが、こういう内容を暗号メモと照合しながら理路整然と訳し上げていくことはかなりのリテンション力と情報処理力が必要です。これが終日の仕事だったりすると仕事が終わったらフラフラです。

数百人のレベルのセミナーでの逐次の方が同じセミナーで同通をするよりも何倍も緊張します。こういう場では高いレベルの通訳力だけではなく、高度なプレゼン力が必要です。はやり何百人という人が一斉に自分のほうを見て通訳を聞いているというプレッシャーもありますし、それ以上に、同通やウィスパリングの場合よりもより高い精度や質が逐次通訳に求められているということもあります。

基礎クラスの通訳訓練で、同通を復習に取り入れることがあります。生徒さんは“えっ!!このクラスで同通??”という顔をされますが、逐次でしっかり練習した教材であれば誰でも同通はできると思います。なぜこういう練習をするのかというと、逐次<同通・ウィスパリングという考え方を改め、逐次通訳で英語又は日本語を聞き情報処理するプロセスが、実は同通と同じであるということを認識してもらうためです。逐次だからゆったりと聞き、聞こえたものをとりあえずメモにとり後で考えよう的なやり方では、当然逐次は無理です。聞いた瞬間に情報を処理していくプロセスは同通も逐次も同じで、違いはそれをすぐに言葉に出すか、それともメモに残しさらに洗練された表現、よりわかりやすい論理構成で訳出するかだと思います。

逐次と同通・ウィスパリングのどちらが難しいかではなく、どちらも通訳者にとっては等しく必要なスキルで、クライアントが急に同通から逐次に変えてくださいと言っても、質を落とさず要求に応えていける通訳者でありたいと思っています。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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