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第66回 企業のウェブサイト②

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。前回は、企業のサイトから情報を短時間で読み取れるようにしておいた方が何かといいですよ、というお話をしました。今回は、具体例を見て行きたいと思います。

例えば前回も挙げました、皆さんご存知、アパレル企業Zaraの親会社であるInditex。よく知ってる企業だし、製品にも馴染みがあるから良かった〜と一瞬思ったりするのですが、実はアパレルやヘルスケア、食品、日用品など小売企業のサイトは、一般消費者向けの情報であふれていて、わたしが今ほしいのは歯磨き粉の情報でも炭酸飲料の情報でもないのだ!とブツブツ言いながら、決算書類を探したりします。また最近ではサステナビリティやダイバーシティなど、社会的要請に応える内容をトップページに持ってくる企業も多く、なかなか目的のものが見つかりません。

そこで、我々の日常生活とかけ離れた事業を展開し、比較的分かりやすいサイト構成になっている、A.P. Moller-Maersk(以下Maersk)というデンマークの海運コングロマリットのHPを見てみましょう。

Maerskはコンテナ輸送を行っていますので、当然ながらトップページに並んだメニューは、利用料金(Prices)や予約(Book)、コンテナ船の運航予定(Schedules)など。以上は同社を「利用する」人のための情報ですが、右端にあるLogistics solutionsには、同社の物流に対する考え方や、サービスを提供する際のソリューション紹介等の情報がぎっちり詰まっています。よって例えば原稿に「最新のロジスティクス・ソリューション開発計画」とあれば、参考になる情報が見つかるかもしれません。

企業の概要を知りたい場合に役に立つのは、About (us)やOur Companyですが、最近はこれが見つけにくいんですよね。Maerskはまだ分かりやすい方で、ページの最下段にAbout usを置いています。

他によくお世話になるのが、やはりページ最下段にあるInvestorsとPress。Investors(Investor(s) Relationsとも)には、投資家(株主)向けの情報がぎっしりです。決算(財務)報告書、年次株主総会や投資家向け説明会の情報、株価情報等々。経営幹部や取締役会の構成、コーポレート・ガバナンスに対する取り組みなどが掲載されていることもあり、金融・ビジネス翻訳者御用達(?)のページです。Pressには、その会社の発表したプレスリリースが並んでいます。NewsroomやPress releaseとしている企業もあります。

いずれも、メディアのフィルターがかかっていない生の情報ですので、非常に貴重。昔と異なり、どの企業も過度に(失礼)スタイリッシュで情報過多という感じで、なかなか目的のモノが見つかりませんが、多数の企業サイトに目を通しているうちに、だんだんと分かってくるようになります。試みに、以下のサイトで最新の業績発表資料を探してみて下さい。

●https://www.jnj.co.jp/
※ご存知、米国のヘルスケア製品大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)です。日本でも有名な企業ですが、日本語の投資家向け情報は作っていないようです。このサイトから本社ウェブサイトに飛ぶか、あるいは本家J&Jのサイトを自分で検索するかして、最新の業績資料にまでたどり着いてみてください。

●https://abc.xyz/
※冗談のようなアドレスですが、Googleの親会社Alphabetのサイトです。

●https://www.glencore.com/
※スイスの資源商社です。

●https://www.yili.com/en/index
※中国の乳業大手ですが、財務報告書は2019年で更新が止まっています(2022年5月時点)。企業サイトの更新停止に気付かずにいると、ひどい目に遭います。これは参考まで。

※今回参考にしたMaerskを含め、日本語のサイトを用意している企業も最近では少なくありません。が、肝心の決算書類やガバナンス、サステナビリティ関連の部分(翻訳者が参考にしたい部分)は、英語と母国語だけ、というケースが多いようです。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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