TRANSLATION

第70回 習うより慣れよう②(その2)

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。「取り立てて特徴のない文章」を取り上げるシリーズ第2弾、2回目の今回は訳出です。専門用語(の理解)はともかく、文法的にはまったく難しいところのない文章ですので、最後の訳例を見る前に、ぜひ一度チャレンジしてみてくださいね。

【本日の課題】
For avid followers of U.S. monetary policy and economic data, the final days of July brought the equivalent of an all-you-can-eat buffet. The conclusion of the U.S. Federal Reserve’s (Fed) two-day policy meeting on Wednesday, July 27, was followed the next day by the release of advance U.S. gross domestic product (GDP) for the second quarter of 2022. Friday, July 29 closed out the trading month with releases on the personal consumption expenditure (PCE) deflator for June and the employment cost index (ECI) for the second quarter of 2022.

●the final days of July
「7月の最後の日々」ですと、何やらこの世が終わりそうな感じがしちゃいますね。この後の文章を見ますと、確かに27~29日の話をしていますが、今回の場合、「最後の方の3日間」など不自然な言い回しにするよりは、ざっくりと「最終週」くらいでまとめてしまって良いと思います。

●all-you-can-eat buffet
経済関連の動き(イベント)が相次いだことを例えた表現なのでしょうが、英語のまま「食べ放題のビュッフェ」ですと、あたかも経済イベント続きでみんな大喜び、みたいな印象になりますので、そのプラスのイメージを排除するかしないか、考え所です。(こういうイベントを利用してリターンを狙う投資家もいますが、投資家全員が喜ぶことはないだろうと思います)

●The conclusion of the U.S. Federal Reserve’s (Fed) two-day policy meeting
前回も言いました通り、わざわざconclusionと入れたのは、FRB会合の2日目(最終日)には必ず声明文が公表され、市場の注目が集まるからだろうと思います。そうした事情を知っているかいないかで、訳文に微妙に違いが出ることもあるので、経済の基本的な動きはなるべく追っておくようにしましょう。

●the second quarter of 2022
企業によってバラバラの決算期と異なり、GDPなどマクロ経済指標で「2022年第2四半期」と言えば絶対に「4-6月期」のことですから、補足は不要かもしれませんが、「2022年第2四半期(4-6月期)」あるいは「2022年4-6月期(第2四半期)」としたり、最初から「2022年4-6月期」としたり、様々なパターンがあります。最終的にはクライアントの意向次第です。

さて、説明はこれくらいにして、実際に訳してみましょう(「ですます」調で)。

【本日の課題】(再掲)
For avid followers of U.S. monetary policy and economic data, the final days of July brought the equivalent of an all-you-can-eat buffet. The conclusion of the U.S. Federal Reserve’s (Fed) two-day policy meeting on Wednesday, July 27, was followed the next day by the release of advance U.S. gross domestic product (GDP) for the second quarter of 2022. Friday, July 29 closed out the trading month with releases on the personal consumption expenditure (PCE) deflator for June and the employment cost index (ECI) for the second quarter of 2022.

【試訳】
米国の金融政策や経済指標を熱心に追っている投資家にしてみれば、7月最終週はイベントが相次ぎ、まさに「満腹状態」だったかもしれません。まず、2日間の日程で行われた米連邦準備制度理事会(FRB)の政策会合が27日(水)に終了した翌日には、2022年4-6月期の米国国内総生産(GDP)速報値の公表があり、さらに7月最後の取引日となった29日(金)には、同6月の個人消費支出(PCE)デフレーターと同4-6月期の雇用コスト指数(ECI)が発表されました。

※all-you-can-eat buffet
やはり「食べ放題」の言葉が入ると楽しそうに響くので、「少々うんざり」のイメージを出すべく「満腹状態」とし、それだけでは分かりにくいので、「イベントが相次ぎ」を入れました。この「イベント」は、以前説明した通り、いわゆる行事や催し物ではなく、経済的に影響が生じ得る出来事のことです(今回の場合、FRBの開催と各種指標の発表)。
イベントが相次ぐ場合は「目白押し」という便利な表現がありますが、今回はちょっと使いにくいかもしれません。

※The conclusion of the meeting was followed the next day by the release.
今回の場合は、「会合が終わった後に、これこれがリリースされた」と淡々と出来事を並べるのが良いでしょう。投資家がイベントを次々消化する雰囲気を出す必要があるのであれば、「こなす」とか、いま使った「消化する」などの表現も使えます。「FOMCをこなした後は…」とか、「雇用統計を消化した後の29日は…」など。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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