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実践!法律文書翻訳講座 第二回 長文に慣れる その2

江口佳実

実践!法律文書翻訳講座

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第二回 長文に慣れる その2
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実践講座の2回目は、引き続き、《長文に慣れる》練習です。
ではまず、前回の宿題から

【例文】  ※イメージはこちらをご覧下さい

The Company shall indemnify the Director, if the Director was or is a party or is threatened to be made a party to any threatened, pending or completed action, suit or proceeding, whether civil, criminal, administrative or investigative (other than an action by or in the right of the Company) by reason of the fact that he is or was a director, officer, employee or agent of the Company or any subsidiary thereof ("ABC "), or is or was serving at the request of ABC as a director, officer, employee or agent of another corporation, partnership, joint venture, trust or other enterprise against expenses (including attorneys’ fees), judgments, fines and amounts paid in settlement actually and reasonably incurred by him in connection with such action, suit or proceeding if he acted in good faith and in a manner he reasonably believed to be in or not opposed to the best interests of ABC, and, with respect to any criminal action or proceeding, had no reasonable cause to believe his conduct was unlawful.

【訳文例】 ※イメージはこちらをご覧下さい

民事、刑事、行政、または調査のいずれの手続き(会社の権利による裁判を除き)であるかにかかわらず、取締役が、会社またはその子会社(「ABC」)のいずれかの取締役、役員、従業員、または代理人であるもしくはそうであったことを理由に、またはABCの要請で他の法人、パートナーシップ、ジョイントベンチャー、信託、またはその他の企業の取締役、役員、従業員、または代理人である、もしくはそうであったことを理由に、発生の恐れがある、係争中の、または終了した裁判、訴訟、または法的手続きの当事者であった、もしくは当事者である場合、またはそのような当事者になるという恐れがある場合、そしてかかる取締役が、誠意をもって、かつABCの最善の利益であるもしくはこれに反しないと合理的に信じる方法で行動し、さらに、刑事裁判または手続きの場合は自己の行動が違法であったと信じる合理的な根拠を有しない場合、会社は、かかる裁判、訴訟、または法的手続きにおいてかかる取締役が実際にかつ合理的に負担した経費(弁護士手数料を含め)、判決の結果確定した債務、罰金、および和解で支払われた金額について、取締役を補償するものとする

第1回の末尾で、

取締役が、発生の恐れがある、係争中の、または終了した裁判、訴訟、または法的手続きの当事者であった、もしくは当事者である場合、または当事者になるという恐れがある場合、会社は、取締役を補償するものとする

というところまで、訳文を作りましたね。
あとは、頭から順番に、原文につけた区切りごとに訳し、適切な場所に挿入していけば良いのです。

どこに挿入するかは、日本語として、訳文全体の流れとして、もっともしっくりする場所を探しましょう。
たとえば、「whether civil, criminal, administrative or investigative」の部分は、「取締役が」の前に入れるか後に入れるか。これには決まりはありません。出来上がった訳文を最初から声を出して読んでみて、流れやリズムがすっきりしていれば良いのです。ただし原則として、主語と述語はとんでもなく離れてしまわないようにするほうが良いと思います。でなければ、訳文を読んでいるうちに、「あれ、何の話だったっけ?」という感じになってしまうこともあるからです。

さて、2回めの今回は、長文を節や句ごとに区切って順番に訳すという方法の他に使えるテクニックをご紹介します。

◆文章を切る

何行にもわたる長い文章を1文として訳すと、非常に読みづらい訳文になることもしばしばです。そういう場合は文章を途中で切り、2文、3文に分けて訳すことも必要です。

では、どんな時にどんな風に切ればいいのでしょうか。

including but not limited to (including without limitation)
「~を含むが、これらに限定されない」と訳すこのフレーズは、法律文書に頻繁に使用されます。これが出てきて、その後にだらだらと「含まれる」ものが羅列されている場合は、いったん切っても構いません。

【例文】

Each user of the Software is solely responsible for determining the appropriateness of using and distributing the Software and assumes all risks associated with its exercise of rights under this Agreement, including but not limited to the risks and costs of program errors, compliance with applicable laws, damage to or loss of data, programs, or equipment, and unavailability or interruption of operations.

【訳文例】

本件ソフトウェアの個々のユーザーは、本件ソフトウェアの使用および配布の適切さを判断するにあたり単独で責任を負い、本契約に基づく権利の行使に伴うリスクの全てを引き受ける。かかるリスクには、以下のものを含めるが、これらに限定されない。すなわち、プログラム・エラー、適用される法の順守、データ、プログラム、もしくは機器の損傷またはは損失、および作業の不能または中断のリスクおよび費用である。

except as、provided that など
これらの接続詞が用いられる場合も、その前と後ろに分けて訳すことができます。

【例文】

However, this document itself may not be modified in any way, including by removing the copyright notice or references to Supplier, except as needed for the purpose of developing any document or deliverable produced by an Supplier Subsidiary (in which case the rules applicable to copyrights, as set forth in the Schedule A, must be followed) or as required to translate it into languages other than English.

【訳文例】

ただし、本文書そのものは、著作権に関する警告文またはサプライヤーへの言及を削除することなどを含め、いかなる形においても修正することはできない。ただし、サプライヤー子会社によって作成される文書または成果物を開発する目的において必要な場合(かかる場合、付属書Aに記載されるとおり、著作権に適用される規則が適用されなければならない)、または英語以外の言語に翻訳する必要がある場合は、その限りでない

箇条書きがある場合
文章の中に、(i), (ii), (iii)、あるいは(a),(b), (c)、などを用いている場合、そういった箇条書きの部分を独立させることができます。

【例文】

The foregoing obligation of non-use and non-disclosure shall not apply to any portion of the Confidential Information which (i) is or shall have been known to the receiving Party before receipt thereof, (ii) is disclosed to the receiving Party by a third party having no obligation of confidentiality to the disclosing Party, or (iii) is or shall have become known to the public through no fault of the Receiving Party.

【訳文例】

前述の不使用および非開示の義務は、次の(i)~(iii)のいずれかに該当する本件機密情報のいかなる部分にも適用されないものとする。(i)受領側当事者が既に知っている、またはこれを受領する前に知ることになる。(ii) 開示側当事者に対して守秘義務を負わない第三者によって受領側当事者に開示されたもの。(iii) 受領側当事者の過失に起因せず、公知のものである、または公知となるもの。

箇条書きの要素が and で結ばれているか、or で結ばれているかに注意しましょう。上記の例文では or になっていますので、(i)から(iii)のうちいずれかに該当する場合、となりますが、これがもしもand であれば、(i)から(iii)のすべてに該当する場合、になります。

このようなちょっとしたテクニックを用いることにより、長い条文へのアタックがしやすくなるのではないでしょうか。
では、宿題です。

宿題

【宿題】

Force Majeure.
Neither party shall be deemed in default or be held responsible for any cessation, interruption or delay in the performance of its obligations hereunder due to any event or circumstance beyond its reasonable control, including but not limited to, earthquake, flood, fire, storm, natural disaster, act of God, war, terrorist action, labor strike, lockout, and boycott, provided that the party relying upon this Agreement shall (i) have given the other party written notice thereof promptly and, in any event, within five (5) days of discovery thereof and (ii) shall take all reasonable steps reasonably necessary under the circumstances to mitigate the effects of the force majeure event upon which such notice is based.

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記事を書いた人

江口佳実

神戸大学文学部卒業後、株式会社高島屋勤務。2年の米国勤務を経験。1994年渡英、現地出版社とライター契約、取材・記事執筆・翻訳に携わる。1997 年帰国、フリーランス翻訳者としての活動を始める。現在は翻訳者として活動する傍ら、出版翻訳オーディション選定業務、翻訳チェックも手がける。

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