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鮭の放流&温故知新

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

3月まで授業を持っていた通訳学校に、代講のため久々に足を向けました。教材の進め方や授業の組み立てについて、あれこれ考えながら学校が入っているビルの玄関をくぐると、見慣れた顔の一団が。3月まで担当していた生徒さんたちです。

「先生!」
「ああー、皆さん!こんにちはー!」

玄関でいきなり「にわか同窓会」になってしまいました。進級して頑張っている方の、疲れの中にも充実感が感じられる表情に内心エールを送ったり、進級して私の授業を受けるのを楽しみにしていたというありがたい方に頭を下げたり、授業がなければもう少し話していたいところでした。でも、皆さんそれぞれの立ち位置で全力を振り絞っているようで、頼もしい限りです。

そうそう、このブログのこともバレてしまっているようで、冷や汗三斗の思いでした。どこで誰が見ているか分かりませんねえ。先週も大学の学生さんが「先日、先生が電車の中で勉強しているのを見ました」と教えてくれて、「マンガ雑誌なんかを読んでるところじゃなくて、ホントに良かった!」と心底思いました。・・・まあ、言われないだけで、そういうところもバッチリ見つかっているんでしょうけれども。

代講に入ったクラスでは、「サービス業」という視点から見た通訳者という職種に焦点をあて、いろいろとアドバイスしましたが、非常に「まじめ」な方が多かっただけに、全体的にもっと「積極的に前に出る」という姿勢があると良いなと感じます。通訳者はでしゃばり過ぎてはいけませんが、あまりに謙虚に引っ込んでいてもお役に立てません。基本的に1人で全てを訳さないといけないわけですから、「私が訳さずして誰が訳す!」という気概が必要になる局面が多いと思います。などと偉そうに言っていますが、通訳学校の授業を受けていて、「ここだけは指名されませんように!」と大きな体を必死に縮めて(?)気配を消そうとしていた思い出は、私にもしっかりとあります。

最後に、「先生を追い抜かすつもりで勉強するように」と、生徒の皆さんにお伝えしました。いろいろな先生に習って、それぞれの先生の「良いところ取り」をするように、と。すると当然個々の先生よりは効率的に学習できるはずですから、理屈から言うと、急速に先生に追いつけるはずです。追われる先生の方でも、そう簡単に抜き去られるのはイヤですから、さらに勉強を重ねます。すると全体的に見て「拡大再生産」ということになるわけです。

単に師匠の「コピー」を作るだけなら、コピーよりオリジナルが良いのは当然なので、「縮小再生産」になってしまいます。それは「教育」ではなくて「伝達」でしょう。

教える側も、自分の持てる知識やノウハウを全て明かして教えるべきですし、学ぶ側は良い意味で「生意気」に、「いや、先生、こう訳した方が良いと思うんですけど、どうでしょう?」と、「師匠越え」を念頭に置いて授業をうける。それが教えるものと学ぶものの礼儀のような気がするのです。もちろん、「序・破・離」のそれぞれの段階に応じて適切にやっていかねばいけませんけれども。

かつての教え子と仕事の現場で再開して、「うおっ!や、やるな!」と冷や汗をかくのが、通訳教育に関わったものとしての、ささやかな夢です。

話は少々変わるのですが、昔は英語力を伸ばしたい人が集まる「英語合宿」みたいなものが結構ありました。私は高校に入る直前の春休みに、トミー植松先生の「イングリッシュ・ギャラクシー」という英語セミナーに参加したのがきっかけですっかり味を占め、高校1年と2年の夏休みに、今となっては懐かしい「百万人の英語」が主催したサマーセミナーにも参加しました。國弘正雄先生や、後に通訳学会で直接お話をする機会が出来た(当時は雲の上の存在でした)鳥飼玖美子先生のレッスンや講演があったり、今は亡きJBハリス先生には御著書(「僕は日本兵だった」)にサインまでしていただきました。余興でハーモニカで「ハロー・ドーリー」を吹かれていたハリス先生の姿は今でも良く覚えています。

今にして思うと、もう少し英語力がついた時点で参加できていればと思います。それでも拙い英語で話すことそのものが楽しくて、参加していた方々からも弟や息子のように可愛がっていただいて、実に楽しい経験でした。英語劇を初めて経験したのも、「百万人の英語」セミナーでしたね。今は連絡をとるすべもありませんが、参加したみなさんは、どうしていらっしゃるかなと思います。「私は『ユカタ』です」、と言えば、当時参加された方には私が誰なのか分かる方がいらっしゃるかもしれません。

何にしても、そんな思い出を下敷きにして、昨年の秋、A大学の通訳クラスの学生さんを連れて箱根で1泊2日の(非公式)合宿をやってみました。これが参加メンバーに恵まれたこともあり、実に楽しかった。今年のクラスの学生さんに水を向けてみたところ、何人か反応があったので、今年はA大学、D大学、R大学合同で非公式合宿が出来たら楽しいかなと考えています。

どうなんでしょうねえ。英語合宿って、大学の学生さん以外にも、今でも結構受けるんじゃないでしょうか。同じぐらいの金額を払えば、確かに外国にだって行けてしまうご時世ですが、それだけに「楽しくスパルタ」的なノリって、意外に貴重な体験なのではと思うのです。実際、日本人ガイドがついたツアーバスに乗りっぱなしのパックツアーよりは、英語力も伸びますし。

そんな企画をお考えの方がいらっしゃったら、講師役として、ぜひ一枚かませていただければ幸いです。

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

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