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授業参観雑感

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

ちょっと前の話になるのですが、小学校に入学した息子の授業参観に行ってきました。見学したのは算数と国語の授業で、それぞれに工夫が凝らしてあって、なるほどなあと思うことしきり。当たり前の話ですが、自分が小学生の頃とは全く違った視点から楽しむことができました。

国語の授業では、子供たちに音読させる際に、「一音目を強調しすぎないように」と先生が指導されていました。これは、なるほどなと思います。下手をすると大人でも一音目をしゃくりあげるような形で強調する人がいるのです。通訳学校で放送通訳の授業をしている時も、「日本語は基本的に高く入って低く抜ける」ということを何度も強調しましたが、文頭アクセントが抜けたかと思うと、今度は助詞を強調しすぎたりする方もいたりして、なかなか指導が難しかったですね。(「今日『は』、みなさん『に』、授業参観『で』、感じたこと『を』、お話します」というような話し方です)

日本語というと日本人は「母語」という意識があるので、どうも「自分の日本語には問題がない」と思いがちなのですが、通訳として必要とされる日本語運用能力、および日本語の発話能力は、日常生活で使うレベルをはるかに超えている以上、きちんと注意を払う必要があると思います。特に大学で「通訳」「翻訳」の授業を取ったり、通訳学校に通ったりしている方は、「英語」は大好きなんですが、その割には「日本語」に対してあまりにも冷たい。教室ではよく「日本語に、もっと愛を!」と冗談交じりに呼びかけています。

さて、英語を教えていると「いかに生徒に英語を話させるか」に悩むときがあるのですが、これも話したくなるような状況設定がとても大切になります。この点でも小学校の国語の授業は参考になりました。

息子のクラスでやっていたのは、「くまさんが、タネがたくさん入っている袋を見つける。何のタネか友達のりすさんに尋ねようと、袋を持ってりすさんの家まで歩いていった。ところが袋に穴があいていて、りすさんの家についた時点では袋は空になっていた。春になって、くまさんの家からりすさんの家まで、きれいな花の道が出来た」というあらすじのお話です。

配られたプリントには、次のように書いてあります。

「くまさんが
 ふくろをあけました。
 なにもありません。
 『しまった
  あながあいていた』」
その文章のあとに、大きな吹き出しが描いてありました。

この吹き出しのなかに、くまさんとりすさんの会話を入れてみようというアクティビティーなのですが、しばらく時間を取って考えさせた後、くまさんとりすさんのお面を用意して「くまさん役」「りすさん役」でロールプレイをさせるのです。

これならば、応用すれば大学などの授業でも使えますね。なるほどと思ってメモしていたのですが、「やりたい人!」という先生の言葉に、天井に突き刺さんばかりに手が上がることあがること。「ハイ!ハイ!」という元気な声に、ビックリしてしまいました。息子のNも元気良く手を挙げ、くまさんのお面をかぶって楽しそうに話しています。

1年生というのは、いや、小さな子供というのは、本当に他人とコミュニケートしたいんですねえ。考えてみれば、息子のNも娘のKも、食事中でも遊びながらでも、脈絡のないことをずーっと話していたり、いい加減に聞き流しているとこちらに質問を振ってきたり、実に積極的にコミュニケートしています。

驚きつつ、少々感動も覚えつつ、

「これが本来の人間の姿なのかなあ、これが大人になると、どうして何も言わなくなってしまうのかなあ。いろいろなメンタルブロックが出来てしまうのだろうけれども、それを取り除いてあげられれば、日本語でも英語でも、誰でも何か話したいんだろうし、それを話すお手伝いができるような『仕掛け』をうまく考えたいなあ」

などと思っていました。

D大学のスピーキングの授業で、実に積極的な学生に恵まれたクラスがあるのですが、このクラスの学生たちはきっかけを与えてあげると、非常に楽しそうに英語で話すし、それをクラスのほかの学生たちも暖かく見守っているのです。「もっと良くなるように、お互いにアドバイスをしてごらん」というと、ニコニコといろんな指摘をしたり、それに耳を傾けたりしています。さらに「自分の考えを英語で言うにはどう言えば良いのか」という問題意識も高く、「質問はありますか?」というと続々と手が挙がります。残念ながら来週でそのクラスの担当は終わってしまうのですが、授業がうまく行った理由が何だったのかをよく見極めて、そのエッセンスを他の授業にも生かして行きたいものです。

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

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