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はじめてのマスク

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 ここのところ、急に冷え込んでいよいよ冬到来。体調を崩しがちになるので、声が商売道具の私も気をつけるようにしている。
 ところが早くも息子が風邪を引いてしまった。熱はないので幼稚園には通い続けているが、かなりの咳。幸い日曜日にやっていた近所の小児科で咳止めを処方してもらった。
 薬のおかげで快方に向かっていたある日、息子が朝こう言った。
 「お母さん、ボクね、マスクが欲しいんだ。」
 内心「うーん、でももう咳も少なくなっているから、マスクなしでも大丈夫じゃないかな」と思った。けれども「わかった。じゃ今日、お仕事の後、マスク買って来るね!」と約束したのである。
 しかしその日に限って遠方での授業。丸一日しゃべり続けて帰りの電車に乗ること2時間。お土産はしっかり買ったものの、肝心のマスクは買い忘れてしまった。気がついたのは、子どもたちを夕方お迎えに行く直前。手帳には「マスクを買う」としっかり書いておいたのに。
 まあ忙しかったし、本人の咳もほとんどなくなってきたから、なくても何とかなるかな。第一、朝の会話なんて夕方にはもう忘れている可能性だってある。
 ところがお迎え時には開口一番、「マスクは??」であった。
 「ごめんね、買い忘れちゃった」と言うと、見る見るうちに大粒の涙をためている。普段なら「ギャーン!!買ってって言ったのに〜!!」と涙ながらに怒るのだが、この日に限って涙も流さず、「・・・いーよ・・・。ボク、我慢できるから・・・」とポツリ。本人なりに母親の仕事状況や色々なことを理解しようと頑張ったのかなと、私の方がせつなくなってしまった。
 幸い帰り道に薬局を見つけた。息子は「無地のマスクがいい」と言う。子ども用はキャラクター物だけなのではと思いきや、子ども向け無地マスクを発見。買ってあげたところ、大喜びであった。
 「ボクね、マスク初めてなんだ!」とニコニコ。咳はもうほとんど出ない。でも「はじめてのマスク」が何よりも嬉しかったようで、ずっとつけていた。私もそういえば、初めて英和辞書を買ってもらったとき、ずっと眺めていたなあ。

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かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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