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投資する勇気

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

工藤社長が9月27日のコラムに書いておられた、『勉強することで増えた知識は、確実にいつかリターンとなって返ってくるし、絶対に裏切らない』という言葉に、心の底から共感する一週間を過ごしている。初めての分野ということで、事前準備で集めた用語は1,200余り、現場に入る直前にはさすがに頭がクラクラしてきて、不安になるとフィジカル路線に逃避する私は、プリントアウトした用語集を片手に早口言葉のようなカタカナ言葉を家の中をブツブツ言いながら歩き回っていた。この仕事のために約1週間、まるで受験生のような情熱で準備したが、今回ほど叩き込んだ知識があらゆる意味で役立っていると感じたことはない。前にも書いたが、私は根が怖がりだし、勉強の仕方も要領がいい方ではないので、いつも過剰準備に走って後悔するのだが、過剰準備位でちょうどよい現場もあるということをあらためて学んだ。何がよかったかといえば、専門用語についてはパブロフの犬並みに発射できるように(この喩え、好きなのでついつい乱用してしまいます)、前回ご紹介した恥ずかしいトレーニング法で叩き込んでおいたお陰で、専門用語については脳のブドウ糖を消費しないですむのである。脳ミソのあまった部分は内容を理解する方に配分することができるのだ。ただでさえ不安な初めての分野で、これほどありがたいことはない。
リターンが返ってくる投資、と言えば、先週お仕事をさせていただいたドイツ人クライアントが面白いことを言っていた。仕事の合間に話をしていた時、なぜか人生観や幸福論など、まるで学生が語るようなテーマになった。私が、『駆け出しであまり仕事がなかった頃は、欲しい専門書を買ってしまうと、次の一週間はおにぎりで過ごさなければならなかったけれど、今は必要な専門書や辞書は後先考えずに買うことができる。これが私にとって今、幸せだな、と感じる瞬間です』と言ったら、『では、何故、君は今、その本が買えるの?』と質問された。あまり深く考えたことがないので、『そうですね〜今は以前よりは仕事が安定して入ってくるからでしょうか…』と申し上げると、『君、それは違う』とおっしゃる。自分のことなのだが、分からなかったので逆に『何故でしょうか?』と聞いてみた。すると、意外な言葉が返ってきた。
『君が今、必要な本を買えるのは、駆け出しの頃に一週間、おにぎりで我慢するというリスクを怖れなかったからだよ。美味しいものを食べる代わりに、高くても必要な本を買ったからこそ、今、そうやってお仕事ができるのではないですか』
『………』
目頭が熱くなった。

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記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

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