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新宿駅最後の小さなお店ベルク

みなみ

通訳・翻訳者リレーブログ

 日本滞在最終週を迎えています。先週は、東京へ行ってきました。109さんを始め、翻訳会社さんにあいさつに伺ったり、仕事を頂いている会社のアンテナショップをのぞいたりした後、JR新宿駅東口のセルフサービスのコーヒーショップ、ベルクに行きました。
 このお店を知ったのは、「新宿駅最後の小さなお店ベルク」という本でした。ベルクオーナー自らがつづったこの本によると、ベルクには毎日、平均して1,500人の来客があり、売り物はコーヒーやビール、ホットドッグやカレーなどの豊富な品揃えです。
 この本では、お父さんから引き継いだ純喫茶、ベルクをいかにして、現在のひっきりなしに客が詰め掛けるお店に育て上げてきたか、さらに育てていこうとしているかが説明されています。読んでいると、ベルクというお店への愛情、仕事への誇りがひしひしと伝わってきます。
 本に書いてあることを体験してみたくて、お店に到着したのは夜7時ごろでした。決して広くない店内にはぎっしりとお客さんが詰まっていて、真冬だというのに暑くて汗が出てくるぐらい。
 ちょうど、本の著者である井野店長がレジを担当していました。カレーライスを注文したら、「今日はライスがなくなってしまった」とのこと。「あれ、どうしよう」と困っていたら、「ナンならありますが」と提案してくれました。
 品切れになったら代わりをすすめる、というのは、ちょっとしたことですが、とっさに別の物が思いつかなくてあせっていたので、この助言は助かりました。
 テーブル席はいっぱいだったので、立ち食いカウンターを使いました。周りには、ビールを片手に話に興じる会社員がぎっしり。一人でビールを楽しむ女性もちらほらいるのも、本に書いてあるとおり。
 食べ物も、たかがセルフというレベルではなく、一つひとつにこだわりがあります。私が食べたカレーもいわゆるレトルトの味ではなく、スパイスがおいしい本格的なものでした。
 そしてなにより、コーヒーのおいしいこと! 本の中に、コーヒーをいかにして安く、おいしく、早く提供するかについての説明があったとおりでした。私はコーヒーをよく飲みますが、こだわりやがあるわけではないの、この記述を読んだ時点では、違いなんて分からないだろうと思っていました。ところが、カップを口に近づけた瞬間に、ふわっとコーヒーの芳しい香りを感じたのです。味も、私が苦手な酸味がなく、さっぱりとしています。「コーヒーって、こんなに違いがあるものなのか」とびっくりしました。
 この本によると、ベルクは現在、ビルオーナーのJRに「時代に合わない」と追い出しをかけられているそうです。いまどきのビル運営というのは、地元の個人店とじっくり付き合うのでなく、人気が高いチェーン店のテナントを数年ごとにどんどん入れ替えていく、という方針が取り入れられているそうです。
 本の中には、あまりにも思い入れが強くて、ついていけないように思える箇所もありましたが、とにかく、一つの仕事へのこだわり、誇りが最初から最後までぎっしりと詰まっています。
 私は、実際の体験が盛り込まれた「顧客満足」ものに妙に心が引かれるくせがあり、この本も大変興味深く読みました。こういう内容には仕事の種類に関らず共通する要素があり、なにかしら私にとっての発見があります。

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記事を書いた人

みなみ

英日をメインとする翻訳者。2001年からニュージーランドで生活。家族は、夫(会社員)、娘(小学生)、ウサギ(ロップイヤー)。

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