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超低速車

アース

通訳・翻訳者リレーブログ

きょうは田舎のおはなしです。

現在わたしが住んでいるところは、北陸地方某県のなかでもかなりの辺境地で、中山間農地が多くを占めています。「中山間農地」とは、平野でもなく、深い山の中でもなく、低い山や細い川の間に田んぼや畑が広がる地域を指します。日本の典型的な田園風景といっていいと思いますが、それはすなわち、急速に過疎が進む典型的な限界集落の姿でもあります。わたしの住む地域全体が限界集落というわけではありませんが、幹線道路を少し外れた地域では、限界の来ている、あるいは近い将来来そうな地区も少なくありません。

と、ここで日本の過疎問題について一席ぶつつもりはありません。いずれはぶつこともあるやもしれませんが、きょうは「元都会人」のわたしが、この田舎に住むようになって受けたショックの一つをお話しようと思います。これまで受けたショックは特大サイズのものからミニミニサイズのものまで数限りなくありますし、何年経っても新たなショックがときどき発生しますので、思いつくたびにまた書くことになるでしょう。きょうは「超低速車」のお話です。

                  ☆

さきほども言いましたように、わたしの住んでいる地域全体が限界集落というわけではありませんが、公共交通機関に限って言えば、ほぼ限界が来ています。つまり、地下鉄どころか地上を走る単線路線すらなく(以前あった第三セクター路線はすでに廃線)、「最寄りの駅」は我が家から30キロ。これ、東京ー横浜間とほぼ同じ距離なんです。路線バスの最寄り停留所は、家から徒歩数分のところにありますが、一日往復10本もあれば御の字、というレベル。

となれば、生活の足として自動車が必需品になります。実際、18歳以上の人がいる家庭はほぼ100%、1人1台の割合で自動車を持っています。運転が下手だの維持費が高いだの言っている余裕はありません。車がなければ、スーパーや病院の徒歩・自転車圏内に住んでいるごくわずかな人々以外は、食料品を買いに行くにも医者に行くにもタクシーを呼ぶか、路線バスで待ち時間を含めて何時間もかけて行くしかないのですから。(都会にない良さと言えば、「駐車スペースはいくらでもある」ということでしょうか。ご存知ない方が多いかもしれませんが、車を買ったら絶対に必要な・・とわたしも思い込んでいた車庫証明は、田舎ですと、普通自動車か軽自動車かを問わず、不要なところもあるんです)

まあそんな状況ですので、都会であればとっくの昔に免許を返上しているような超高齢(80歳以上?)の方々も、でき得る限り、車を運転することになります。

もちろん、低い山と田園の広がる地域ですので、道路は片側一車線。歩行者もほとんどおらず、信号もほとんどなく、難点はカーブとアップダウンが多いくらいで、運転そのものは簡単です(夜はまた話が別ですが)。よって基本的には、どの車もかなりスピードを出します。

                                           シンプルな道。

しかしそんな中、時として「超低速車」が出現します。典型的には、例の高齢者用の枯葉マーク・・・失礼、もみじマークをつけた軽トラック。運転手は、なぜか農薬の名前が大きく書かれたキャップをかぶるじーちゃんが多いです。耕運機メーカーの名前が入ったキャップをかぶるじーちゃんもいます。たいてい、斜めにかぶっています。口にはタバコ。たぶん、農作業の帰りなのでしょう、荷台にいろんな道具を積み込んで、ユルユルヨレヨレと走ります。

そういう車の後ろについたからといって、イライラしてはいけません。なぜなら彼らは、まさに泰然自若、後ろでどれだけ渋滞していようとどこ吹く風だからです(渋滞といってもせいぜい3、4台ですけれど)。時速はだいたい20〜30キロ程度。速い自転車並みでしょうか。後ろを見ているのかいないのか、いや、どう考えても見ていない。とにかくマイペースを貫きます。ときどき、ふら〜っとセンターラインを越えそうになったりして、見ているこちらがドキドキします。そういう場合、後続車(わたし)は自らの身を守るため、十分すぎるほどの車間距離をとります。

earth9.JPG                          センターラインを越えた衝撃的瞬間を激写!!

                         (助手席からの撮影です。念のため)

そして・・えっ。

止まった。ここがじーちゃんの目的地なん?
でも、道路の真ん中に止まってるし。

えっ。えええっ。

な、なんと、道路の向こう側にいた知り合いと話し始めるではありませんか!!!!

あ、あのう。。わたし、どうすれば・・・あ。やっとこっちに気がついた。走り始めてくれました。

・・という調子で、なにしろマイペース。道路の真ん中に止めたままで知り合いと話し始めるのだけは勘弁してほしいと思いますが(苦笑)、通常は、彼らのせいで渋滞(?)に巻き込まれた人々も状況はよくわかっていますので、それほどイライラはしていない・・ように見えます。追い越せる場所があればすぐに追い越しますし、なにより、そんな運転で長距離を走ることはないと分かっていますので、ちょこっと辛抱していれば、どこかで止まるか、曲がっていきます。外から来たわたしにはうかがい知れないことですけれども、もともと地元に住んでいる人は、「○○に住んでる△△のじーちゃんで、□□から帰るところ。あの車はこの前ぶつけて、最近修理屋から戻ってきた。あそこのヨメさんは先月から××で働き始めた。それから・・」という、△△家をめぐる諸事情を心の中で思い浮かべながら、後ろをついていっているのかもしれません。そういうプライバシー完全漏出状態もなんだかなぁと思うものの、無用な争いを押しとどめるブレーキの役割を果たしている部分はありそうです。

さて、車の他にも「超低速車」は存在します。バイクと自転車です。

バイクの場合、よくあるパター

は、じーちゃんが前、ばーちゃんが後ろの2人乗り。都会ではバイクの2人乗りはまず若者限定ですが、こちらでは超高齢者の方々が、やはりユルユルヨレヨレと乗っておられます。もともと自動車免許を持っていなかったとは考えにくいので、年金生活で車を維持する余裕がないのかもしれません。厳しい現実です。

それはともかく、バイクは自動車と違って倒れる可能性がありますから、後ろについたときの緊張度は倍増。なるべく早く抜くに越したことはありません。対向車が来ないのを確認し、十二分に余裕をとって、素早く抜き去ります。

さらに。最も驚かされるのが自転車です。歩いたほうが速いんじゃなかろか、という低速で、ユ〜ルユ〜ルヨ〜レヨ〜レ走ります。二輪車の場合、とにかく前に進まなければ倒れますから、ある程度のスピード以下になると、遅く走るほうが難しいはず。しかし、じーちゃんばーちゃんたちは、中国雑技団も真っ青という感じの絶妙のバランスをとって、超低速で走ります。しかも荷台には、長いクワが結びつけてあったりして。難易度マックスでしょそれ!!!

こういった情景を「のどか」と見るか、日本の平均のはるか先を行く超高齢化社会の象徴と見るか。

ということをいつも考えながら走っているわけではなく、ま、普段は「早いとこどっかへ行ってくれないかのう」とぶつぶつ言いながら、ゆっくりと後をついていくわたしなのでした。

(道路の真ん中に車を止めたままで知り合いと話す情景、じーちゃんとばーちゃんの2人乗りバイク、中国雑技団ばりの自転車のいずれも、激写できませんでした。ザンネン)

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記事を書いた人

アース

金沢在住の翻訳者(数年前にド田舎から脱出)。外国留学・在留経験ナシ。何でも楽しめる性格で、特に生き物と地球と宇宙が大好き。でも翻訳分野はなぜか金融・ビジネス(英語・西語)。宇宙旅行の資金を貯めるため、仕事の効率化(と単価アップ?!)を模索中。

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