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原点に返る

パンの笛

通訳・翻訳者リレーブログ

 普段は元気一杯、気合100%をモットーに生きている私ですが、そんな私でも、なんだか気分が浮かび上がってこない日があります。なんというか、ピリッとしないのです。外に通勤していた頃はそれでも気分転換のきっかけは色々ありましたが(他人の声を聞いたり、電車からの風景を見るだけでも違うものです)、今はとにかく引きこもりの一人っきり生活ですから、どうにも気分転換のきっかけをつかみにくいというのが現状です。本当は無理にでも散歩にでも出れば良いのかもしれませんが、気分が負のループに入ってしまっているときはそれもままなりません。で、気がつくと「私はそもそもどうしてここでこうして仕事をするに至ったのか」などと、にわかには回答の得られない問いを自分に投げかけてしまっていたりします。実はこれを書いている今も、ちょっぴりそんな心境です。でも、さっきまでぐるぐると考え事をしているうちに、初めて翻訳らしき仕事をしたときのことをふと思い出してしまいました。あの頃は、私はまだ事務を担当する派遣社員で、たまたま部署にカナダ人の方がいて、誰も英語が話せないから私が代表して通翻訳のような立場に納まっていたのでした。その部署はソフトウェア開発を行っており、一人来日していたカナダ人の方はその分野の専門の方でした。かたや私はソフトウェア開発の「ソ」の字も知らないひよっこでした。「要件定義」も(正確には「要件」も「定義」も)、「同期する」も、聞いたことのない単語でした。手元にあったのは学生時代から愛用していた新コンサイス英和・和英辞典だけ、という今思うと恐ろしいくらいに心もとない状況でした。そんな体たらくだった私でも、自分の能力を活かした結果、誰かが「ありがとう」、「助かったよ」、と言ってくれたときの嬉しさは格別でした。もしかしたら、少しだけ人と違う能力を活かして、私にしかできない仕事を生きる糧にしてゆけるようになるかもしれない、と希望を見出すことができるようになった、最初の時期だったのです。翻って、今の私。その時期から紆余曲折を経て、一応誰に対しても「職業は翻訳者です」と胸を張って言えるようになりました。私なりのプロ意識も身について、何を考えるにもまず切り口は「翻訳者としての自分」だったりします。あの派遣社員時代の私が今の私を見たら何と言うでしょう。きっと、「正にそんな仕事がしたいと思っていた」と言ってくれるに違いありません。…そんな風に考えていたら、自分がなんと恵まれているか、じわじわと幸せな気持ちがよみがえってきました。時々原点に返って、自分は元々何を目指していたのか、自分はどうしたかったのか、に思いをめぐらせることはとても大切だと実感しました。時には今日みたいに立ち止まることがあっても、毎日毎日、今日は昨日より前進した自分、成長した自分でいられますように。

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記事を書いた人

パンの笛

幼少時に英国に滞在。数年の会社勤めを経て、出産後の仕事復帰を機に翻訳を本格的に学習。現在はフリーランスの在宅翻訳者。お酒好きで人好き、おしゃべり好きの一児の母。

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