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初心にかえる

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

以前にもちらっとお話したことがあるSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)であるが、最近、ちょっとした出来事があった。
日本で先週開催されていたテニスの大会に、私の好きな某有名プロ・テニスプレイヤーが出場していた。初来日である。
この選手のファンが作っている、そのSNS上の「コミュニティ」に私も参加しているのだが、この「コミュニティ」、誰でも好きなテーマの「トピック」を立ち上げることができる。
一方、この選手のオフィシャル・サイトには、本人のブログも掲載されているのだが、残念ながら英語版、ドイツ語版、フランス語版しかない。それでも本人がスイス人だから3つの言語がある点が立派だけれど。
ブログは彼自身の人柄がにじみ出ているとでも言おうか、ユーモアに溢れ、ファン思いで、礼儀正しく、とてもいい感じ。読んでいて楽しいのだ。日本に到着してからも、毎日アップされている。ふと、日本のファンで英語もドイツ語もフランス語も読めない人たちに、これを読んで欲しいと思った。
そこで、そのSNS上のコミュニティに、彼が東京にいる間限定でブログの内容を要約してお伝えし、コミュニティの参加者で東京・有明でのその大会を観戦した人たちに、生で彼を見た感想や印象を伝えてもらうためのトピックを立ち上げてしまった。
もちろん著作権の問題があるから、逐語の翻訳は控える。ざっと「こんなこと書いてあるよ」というスタンス。一応、オフィシャルサイトを通して「こういうことをやるから、許してね」というメッセージを送って。
この「コミュニティ」はかなり前にできたものなのだが、意外にもオフィシャルサイトやブログに触れた「トピック」や発言は少なかった。余り興味ないのかな、なんといってもアスリートだから、ファンも彼のプレイのスタイルや技術、試合の結果の方が重要なのかなと思ったりもした。この大会に関しては、開催前から「トピック」が立っていたので、チケット情報や試合の様子などはこちらに書き込まれているし。
しかし、立ち上げた晩の翌日からボチボチと書き込みが始まり、私自身のページにも見知らぬ人たちの「足あと」がつき始めた。トピックを見た人が覗きに来てくれたのだろう。書き込みには「オフィシャルサイトに気付いていなかった、ありがとう」とか、「刺激されて頑張って英語版を読んでみました。人間らしい一面が見えて面白いですね」といったものも増えてきた。さらに、私のページの「日記」の中にも「コミュニティから来ました。ブログの紹介ありがとう」といった書き込みが入るようになった。「長文なのにすごく読みやすくて、ページを訪問したら翻訳家だったんですね!」などなど。
私はただ、この選手のブログの中で紹介されている日常的なエピソード(ウォシュレットに感激したとか、日本の携帯電話の優れた機能に驚いたとか、仲間のプロ選手たちと日本食を食べに行ったこととか)や、新聞で報道されなかった活動(皇太子殿下と御所でテニスをしたとか、スポーツ選手に贈られる賞の授賞式でスケートの荒川静香さんに会ったとか)を、試合やその他の忙しい仕事の合間に丁寧に綴ってくれているのが嬉しくて、それを他の人と共有したかっただけなのだが、思いがけず感謝されてしまって、さらに何だかとても嬉しかった。
そして気付いたのだ。そうだ、私が翻訳の仕事を選んだのは、そういうことだったのだと。
今でこそ、英語を使える人口は増えているけれど、それでもまだまだ簡単に英語を読んだり聞き取ったり話したりできない人は多い。そんな人たちに、英語で書かれているがために分からないことや知らなかったことや、伝わらないことをお伝えして、少しでも喜んでもらえたり、役に立つこと、それが逆に嬉しくて、この仕事をしていたのではなかったか、と。
それ、普段の仕事と日常生活に追われて、忘れていたよ。
ロジャー、あなたのお陰だよ、ありがとう!

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記事を書いた人

the apple of my eye

日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

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