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ちょっと、ちょっと!!

フレッヒ

通訳・翻訳者リレーブログ

  タイトルが、何だか、まん丸お笑い双子組みの
一発ギャグみたいになってしまいましたが、
通訳者、翻訳者として、困ること。
「ちょっと、ちょっと、それどうよ??」と
言いたくなる場合の一つとして・・・

 通訳者だから、翻訳者だから
言葉が出来るのだから、「ちょっと位大丈夫でしょ」
と気軽に頼んで来る翻訳・通訳依頼。
もちろん報酬なし。主にフリーランスでやっている場合の
通訳者・翻訳者に多く発生する事項だと見受けられます。

 大抵の場合、大して仲の良くない
知り合い程度の人や、友人の紹介だったり。

 先日も、10年振り位に、とある会合で再会した
知り合いが、数日後連絡してきて、
「〜ちゃん、覚えているよね?何か貴方に連絡したいみたい
だったから、連絡先教えたよ。」と。

 彼女とも10年以上、連絡を取っていません。
向こうからも特に何か連絡があった訳でも
私からあえて連絡を取ろうと思った訳でもなく、
付き合いのあった当時も、とりわけ親密と言う間柄ではなく、
本当に軽いお付き合いの
友人程度。

 10年以上振りにメールで連絡してきて
彼女の仕事で、ドイツ語であるフレーズを言いたいから、
(彼女は現在、司会業)
これこれと言う文章をドイツ語に
訳して欲しいと書いてありました。
その文章と言うのも、芸術家の精神性を表した
格言みたいな、かなり抽象的な文章で、
その芸術家が誰であって、どんな芸術かも
何もなく、ただ、訳してくれって言うのは、
難しい類のものでした。

 なぜその文章が生まれてきたのか、バックグラウンド
を説明して貰わないと訳するのは難しい、と返信すると、
詳しく説明していると間にあわない、もう明日には使うんですと
言うのです。さらっと説明は付け加えてあったので
何となくこんな感じかなと言う訳文で送ったら、
後日、結局自分で考えたのを(彼女はドイツ語習得者)
直前で私の文章を使用し、変更しました、ありがとうと
メールで連絡がありました。

 でも、それっきり・・・季節の便りも、
久しぶりに会いましょうと言うメールでの
一言も、全くの社交辞令だった様で、連絡はありません。

 こう言う方って今更な話で
怒る気もなくなってくるのですが、
普段仲良くしているのならまだしも、久々に
連絡してきて、言葉を生業としている職業だと言うのが
分かっていて、こう言う頼み方と結果だから、
私の心の中では
「ちょっと、ちょっと!自分が司会、明日1時間タダでやって
台本はないけど、ギャラもないけどって、
かなり久しぶりの友人に同じ立場で突然言われたら、
どう言う気持ちになるの?」
と言ってやりたくなりました。

 また、以前、ある市の職人の方から
ドイツ製消火器の説明仕様書(A42枚)を友人を通して
訳して欲しいと言う依頼があり、私の友人に請求書は
どこに送れば良いのかと聞いたら、
「通訳さんはうちの市の出身だし、ちょこちょこっとタダで
やって貰えるんだと思ってた。報酬は飲み会位でお願い
出来ないかな。」と・・・。もちろん即答、お断りしました。

 ある大御所の大変尊敬する先輩通訳者に
こんな話をいくつかしていると、彼女、

 「私もね、40年以上も前のドイツ留学時代、
本当にお金のない頃に、日本から
その当時、駆け出しのデザイナーさんが
ドイツのお城をいろいろ周って、
ドレスのデザイン構想を練りたいって来たのよ。」

 と話を始めてくれました。

 「貧乏学生だったから、まとまったアルバイトが
本当に嬉しくって、
毎晩夜遅くまで仕事に付き合ったし、
コーディネートも全てやって、
私としては一生懸命、通訳だけでなく、
彼女がスムーズに仕事出来るようにと
それはそれは頑張ったの。
全く違う世界の人とお仕事だったから興味深かったし、
勉強にもなったわ。でもね・・・」

 一応、そのお仕事は、時間制限や延長料金などはなく、
1日幾らと言う条件で、最初に話があって、
彼女も納得し、お仕事を開始されたそう。

 「最後に仕事が終了、さあ、通訳料を清算しよう
と言う時になって、あの時、あなたは結構なコースディナーを
一緒に食べたとか、
間違った訳をして、後で訂正したとか、
いろいろと難癖を付けられ、
大幅に通訳料を値切られてしまったの。
本当に本当に悔しくて
結局値切られた額で受け取って私は泣きながら帰ったわ。
今でも彼女がTVや雑誌に出ていると、ああ、ああいう人だから
成功するのかもねと、悔しかった当時を思い出すわ。」

 と話してくれました。私も秋口に通訳人生で初めて
仕事終了後に難癖を付けられ、
女性経営者から値切られた後だったので
大変心に沁みる体験談でした。

 そこまでお金にシビアじゃないと、女性として
経営者として成功できないのかなとも思うけれど、
結局その人と成りだと思うんです。
自分が成功していくためには
自分も人を思いやるような仕事をして、
自分を取り巻く人達にも決して負担にならに様に働いてもらう。
そこから人とビジネスのプラスの
相乗効果が生まれると思うのです。

 ちょっと、ちょっとと思う事が多くなったのは
この決して不況のせいだけではありません。
私があの人の立場だったら
と言う、他人の立場にたって、考えられる心がいろんな所で
問われてるのではないでしょうか?

 そして、通訳者・翻訳者は物を売る立場にないにせよ、
その言葉と言う技術を売る職業です。
そこまで辿り着くまでに、様々な道を歩んで、自分に投資をし、
通訳技術を身に付けたと言う、通訳者・翻訳者
として、皆さんと同じ「職業人」である事を
誇りに思いながら、私達は仕事をしています。

 そして、「ちょっと、ちょっと!」な人達にも、
この立場を少しでも理解していただきたいなと
思う今日この頃なのです。

 

 写真は、ドイツ・アーヘンの郊外にある
(もう数十メートル先はオランダと言う、国境近く)
個人所有の大変素敵なお城です。

Written by

記事を書いた人

フレッヒ

高校時代をドイツで過ごし、日本の大学を卒業後、再び渡独。ドイツでの日本企業勤務を経て10年前よりフリーランスドイツ語通訳者として活躍。車関係全般・ジュエリー・スポーツ関係・整形外科分野を得意とする。普段はワイン・焼酎をこよなく愛し、庭で取れたハーブやジャガイモで主人や友人達とBBQしながら休日を過ごすのが大好き。そして大の八重山諸島フリーク。

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