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これでいいのか、受験英語

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

最近の仕事で、大学受験生向けの文法解説書の例文作り、というものがあった。いわゆる翻訳とは違う仕事でやや戸惑ったが、ン十年前に自分も受験生だった頃のことを思い出し、懐かしくもあった。
しかし、受験用の英語って昔も今もほとんど変わらず、しかもどこか変だ。 Hubbub from the Hubさんが受動態と能動態の書き換えについて書かれたことと少し重なるかもしれないが。文法をシステマティックに教えるのはいいとして、「これじゃあ英語が嫌いになる人もいるだろう」と思うようなことも色々ある。

まず、「S+V+C」「S+V+O+C」だのという解析。なんかこう、数式みたいなのが並んでしまうと、言葉を学んでいるという気がしない。あるいは「分詞構文」「不定詞」「間接目的語」なんて、難しそうな用語が並ぶと嫌な感じだ。

問題の作り方や、求められる答えのあり方にも疑問を感じる。
よくあるのは虫食いや書き換え問題。
たとえば、
When I saw those photographs, I remembered my childhood.
という文章を、
[   ] those photographs, I remembered my childhood.
と、カッコを埋めて書き換えろ、という問題なんかがよくある。
これには分詞構文を用いて[Seeing]とするのが「正解」らしい。
それはそれで、もちろん間違いじゃない。
でも逆に、Seeing the photograph… の文章を、接続詞を用いて書き換えろ、という問題の時は? 受験用文法書では、この場合、接続詞の as を用いてはダメだと書いてあるものがある。as には、「〜したとき」「〜しながら」「〜したので」「〜したけれども」と色々な意味があるからだそうだ。だから、When/ While I saw とするか、I saw those photographs, and I remembered my childhood. とするのが良いのだと。
一方、分詞構文の Seeing… は、「〜しながら」(付帯状況)とか「〜なので」(理由)にも解釈できる。「その写真を見たとき」でも、「見ながら」とか「見たので」でも、全然おかしくない。それなのに試験問題に往々にしてあるのは、その分詞構文が「時」なのか「付帯状況」なのか「理由」なのかを区別して理解していることを答えさせようというものだ。どっちでもいい、なんて問題と解答は作られない。特に、マークシート方式だと答えはいつも1つだけ、になってしまう。
訳を書かせるときも、「その写真を見たとき」なのか、「見ながら」なのか「見たので」なのか、ハッキリさせないと減点対象になりかねないらしい。でも翻訳的には「その写真を見て」と、どっちつかずの訳の方が、自然で好ましい気もする。
だから上記のカッコ埋めでも、文章の意味さえ大きくズレなければ、答えを分詞構文に限定せずとも、As I saw…や、極端に言えば Because I saw…に書き換えても、構わないんじゃないの、と思う。でも、分詞構文を求められている時は、それ以外の答えではダメで、減点なのだ。
そんなの、ちょっと変だし面白くない。

「分離不定詞」についても、受験英語では一応「ダメ」ということになっている。
たとえば、
Students are required to carefully listen to the tape.
これは「×」で減点らしい。carefully は、tape の後に持ってこなければならないのだそうだ。
でも実際に使われている英語では、分離不定詞はバンバン出てくる。
Jiang Urges Officials to Fully Understand WTO Entry
これは、とある新聞記事の見出し。分離不定詞は特に新聞英語でよく使用される。それでも「×」で減点なのか?
正しい文法を学ぶことは大切かもしれないけれど、使える英語を身につけることが学習の目的だという視点が抜け落ちている気がする。英語の試験なんて、虫食いや書き換えなどのテクニックよりも、和訳と英訳ができればいいんじゃないの。言われていることが読み取れて、言いたいことが言えればいいんだから。

それに、ネイティブ・スピーカーだって、正しい文法だけを使っているわけじゃない。
大昔だけど、マイケル・ジャクソンの『Black or White』を聞いたらブッ飛んだ。
♪But, If You’re Thinkin’ bout My Baby
It Don’t Matter If You’re Black Or White♪
うわぁ〜〜〜、三人称単数現在形はどこいった?
それを言えば、エルビス・プレスリーの Love Me Tender だって、「Tenderly だろ!」と突っ込まなければならない。
でも、それじゃあマイケルやエルビスの持ち味がまったく変わってしまうのだ。
ハリー・ポッターのハグリッドだって、Where’s me umbrella? なんて言ってるし。
でもハグリッドがダンブルドア先生と同じような英語を喋っているなんて、ありえないのだ。

英語ってもっと生き生きしてて楽しくて身近なものということを教えながらの、学校での英語教育って、無理なのかなぁ。

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記事を書いた人

the apple of my eye

日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

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