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言葉の力

the apple of my eye

通訳・翻訳者リレーブログ

遅まきながら先週末、映画 『ザ・インタープリター』 (2005) を観た。
きっとハイ・キャリアに関係するインタープリターの皆さんもご覧になったことだろう。もしかすると、このリレー・ブログでもすでに取り上げられたかもしれない。ヒロインが国連の通訳という設定は、ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』 のリメイク 『ダイヤルM』 でグウィネス・パルトロウも演じていたが、ここでは通訳という職業はそれほど重要ではなかった。 『ザ・インタープリター』 ではタイトルにもなっているくらい、この職業が大きな意味合いを持つ。

ニコール・キッドマン扮する美しいインタープリターは、NY の国連本部の職員。フランス語も操るが、アフリカの架空の国マトボ共和国の出身で、マトボの人しか話さないという「Koo」という言語を話すことができる。ある日、マトボ共和国大統領の暗殺計画が Koo 語で話されるのを漏れ聞いてしまい……。
実はニコール (役名:シルヴィア)は、故郷マトボで両親と妹を大統領派の埋めた地雷で殺され、その怒りからマトボの反政府勢力の一員だった。兄は今もその活発なメンバー。

では、なぜ今は活動せずに国連で通訳を? と、連邦シークレット・サービスのショーン・ペンに聞かれる。
「言葉の力を信じることにしたからよ」

きゃー、カッコイイ!
このあと、これがストーリーの軸となっていく重要なライン。
これ以上書くと、万が一ご覧になっていない人にネタバレになってしまうので書かないけれど。

みなさんは、なぜ通訳や翻訳の仕事を選んだのか、はっきりと自覚されているだろうか。シルヴィアのように、いつでも明言できるだろうか。
国連のような場所で通訳をしていれば、国と国の紛争の間に入るなんて場面が日常茶飯事。自分の言葉の選び方1つで、大変な事態を引き起こしかねない大切な仕事。
だけど、別に国連でなくても、やっぱり「言葉の力」を信じているから、私たちは今の仕事を選んでいるのではないだろうか。教師は教育の力を、弁護士は法律の力を、技術者は技術の力を、医者は医学の力を、役者はパフォーマンスの力を、音楽家は音楽の力を信じているから、その仕事を選んでいるのだと思う。

映画の中には爆弾テロのシーンもある。公開は昨年の春だが、その後7月、ロンドンで地下鉄とバスを狙ったテロがあったので、今見ると、このシーンが鮮烈。「言葉の力」とまったくの正反対である、「暴力」。言葉を使って分かり合う姿勢を放棄してしまった、悲しい行動。

先ごろ、イスラム教を侮辱する風刺画を掲載したという理由でイスラム教徒が激怒し、挙句の果てにはシリアやレバノンなどで、デンマークやノルウェーの領事館が焼き討ちにあっているというニュースが流れている。異なる文化、異なる思想があるということを互いに受け入れ、暴力ではなく言葉の力で歩み寄ることはできないのだろうか。

この作品、もしまだご覧になっていなければ、できればDVDでご覧になることをお勧めする。「特典映像」に、実際の国連通訳たちへのインタビューなどが含まれているので興味深い。

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記事を書いた人

the apple of my eye

日本・米国にて商社勤務後、英国滞在中に翻訳者としての活動を開始。現在は、在宅翻訳者として多忙な日々を送る傍ら、出版翻訳コンテスト選定業務も手がけている。子育てにも奮闘中!

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