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第25回 愛の尊さを考えるときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

世の中には、愛の素晴らしさを讃える多くの歌があります。

愛があるからできること、愛する喜び、愛される喜び。これらはポジティブなエネルギーに満ちています。

しかし、今回ご紹介する詩は、少し違った視点から、愛の素晴らしさを歌っています。

愛は役立たずであるという主張から始まるのですが、いったいどうやって愛の尊さにつながるのでしょうか。

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Love Is Not All
Edna St. Vincent Millay

Love is not all: it is not meat nor drink
Nor slumber nor a roof against the rain;
Nor yet a floating spar to men that sink
And rise and sink and rise and sink again;
Love can not fill the thickened lung with breath,
Nor clean the blood, nor set the fractured bone;
Yet many a man is making friends with death
Even as I speak, for lack of love alone.
It well may be that in a difficult hour,
Pinned down by pain and moaning for release,
Or nagged by want past resolution’s power,
I might be driven to sell your love for peace,
Or trade the memory of this night for food.
It well may be. I do not think I would.

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愛は全てではない
エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイ

愛は全てではない 
お腹を満たすものでも 喉を潤すものでもない
眠りでも 雨をしのぐ屋根でもない
溺れる人がしがみつく船のマストでもない
浮かんでは沈み 浮かんではまた沈む

愛は満たすことはできない
ダメになった肺に息を吹き込んだり
汚れた血をきれいにしたり 折れた骨を元に戻したり
しかし多くの人が死を友に選んでしまう
こうしてわたしが言葉を紡いでも
愛の欠乏 ただそれだけで絶望してしまう

苦しいときに
例えば痛みに身動きが取れずに 救いを求めて呻いたり
決心を上回る思いに苛まれたり
そんなとき 平穏と引き換えに
あなたからの愛を売り飛ばそうと思うかもしれない
空腹を満たそうと
この夜の思い出を差し出そうと思うかもしれない
わたしはそんなことしない

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衣食住が満たされなければ、人は生き延びていけません。愛はその代わりにはならない。その厳然たる事実を述べて、この詩は始まります。

愛というものがいかに頼りないかということを、様々なメタファーを使って繰りかえしています。

個人的には3行目の「(愛は)雨をしのぐ屋根でもない」に、グッときます。

愛があっても、雨漏りの穴を物理的には塞ぐことはできません。でも、家族の愛や人生への愛があれば、そんな暮らしを笑ったり、思い出として暖めたりすることができるとも思います。

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詩の中盤では、より究極的な生死を分ける局面で、いかに愛が役立たずかを述べています。

人は様々な原因で命を終えます。愛の力では、傷を癒せませんし、死から人を連れ戻すことはできません。そう考えると、愛の力も頼りなく思えます。

しかし、ここで、詩は大きな転換をみせます。

愛なき人は、死を選んでしまう事もあると。愛の力の無さをこれだけ並べても、その愛ゆえに人が命を落とすこともあると。それほどに愛は人にとって大切なのだと。

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詩の終盤では、自分自身を見つめます。自分ではこうしようと決めたとしても、愛情の力には勝てないときがあります。

例えば、どう考えても疲れているし、自分にだって明日がある、そんな夜。

愛情さえなければ、自分の好きなようにできるのに。

でも、そんな夜に、夜中に起きて泣き喚く子どもの背中をさすってやったり、病院のベッドに横たわる人が寝息を立てるまで手を握ってやったり。

自分にとっての都合など、愛情の前では吹き飛んでしまうことがあります。

愛情という見えない力が全てを凌駕してしまうときが、人生にはあるのです。

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今回の訳のポイント

この詩は、詩の展開とともに、論理や視点が転換していて、詩の構成という面でも胸を打ちます。

最初は、生存を懸けた局面でいかに愛が役立たずかを述べます。

しかし、その愛の欠乏によって人が命を捨ててしまうこともある。それだけ愛の力は強いのだと、ここで詩は転回をみせます。

最後に、愛情がなければ楽なのに、と一瞬思っても、I do not think I would.「わたしはそんなことしない」と、思いを新たにしています。

自分の都合はどうでもよくなってしまうほどの愛情、その強さ、その尊さを信じて生きたい。そう思う自分をいつも奮い立たせてくれます。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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