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第24回 朝食にパンを食べているときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

心を満たすものって、色々ありますよね。

何かを成し遂げたとき、何かにひとり没頭しているとき、大切な誰かの笑顔を見たとき。

今回の詩は、朝食のパンに心満たされることを歌っています。

朝食のパンのような身近なものに、なぜ心を動かされるのか。ありきたりのものに込められた深い意味を味わってみましょう。

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Decade
Amy Lowell

When you came, you were like red wine and honey,
And the taste of you burnt my mouth with its sweetness.
Now you are like morning bread,
Smooth and pleasant.
I hardly taste you at all for I know your savour,
But I am completely nourished.

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10年間
エイミー・ロウエル

わたしの前に現れた君は 赤ワインか蜂蜜かのようだった
君を味わうと その甘さに火傷してしまったけど
今の君は 朝ごはんのパンのようで
穏やかであたたかい
もうよく分かっているから 深く味わうことはないけれど
深く深く
わたしは満たされる

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その甘さに火傷しそうになる蜂蜜やワインって、どんなものなのだろう。朝ごはんのパンって確かに味わって食べていないなあ。

そんなほのぼのした雰囲気から、「深く深くわたしは満たされる」という最後の一行で、一気に心を持っていかれますよね。

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食事を共にするって、人との深い親密さを支える、大事な時間ですよね。

赤ワインや蜂蜜のように特別で濃厚な時間もあれば、朝食のパンのように当たり前に感じる時間もあります。

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この詩のタイトルである『10年間』も鍵ですよね。その瞬間のひとつひとつが刺激的だった出会いのころから、歳月が過ぎて、お互いの存在が空気のようになってくるころ。

それは新たにお互いを知っていく驚きではなく、相手のことを分かっている安心感。

それが文字通り、糧となり栄養となって、心を満たしていく。

身の回りの家族や友人など、パンとなって満たしてくれる人たちに感謝ですね。

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今回の訳のポイント

葡萄酒とパンは、キリスト教ではイエス・キリストの血と肉の象徴とされ、メタファーとして使われることが多いです。

その2つが並べられたことで、何らかの象徴性を帯びてくるのかと身構えてしまうのですが、この詩は、それらを対照させながら、日常の暮らしと身近な人との関係に落とし込んでいます。

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最終行、I am completely nourished.のnourishedに悩みました。

パンという食物によって、栄養を摂取し滋養とするように、人の存在によって力を得ること。

しかし、パワフルにではなく、日々の草花への水やりのようなやさしさで表現したく、「わたしは満たされる」としてみました。

食卓の幸せを噛みしめるように、人と過ごす時間のあたたかさを大事にしていたいです。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END