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第66回 怒りにメラメラと燃えたときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

詩集をめくっていてクスッと笑ってしまうことがあります。

比喩やレトリックを使ってはいるけれど、怒りを抑えきれていない詩に出会ったときです。

アイルランドの詩人イェイツは、自分自身の詩を素材に、丹精込めてつくった本物の仕事が、いかにして横取りされてしまうか。そして、本物の仕事はそれでも生き残る!ということを、怒りを込めて詩にしています。

そんなことを書いているだけで、心が熱くなってきました!『上着』という詩なのですが、なぜ「上着」と「怒り」が結びつくのか、まずは読んでみてください。

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A Coat
William Butler Yeats

I made my song a coat
Covered with embroideries
Out of old mythologies
From heel to throat;
But the fools caught it,
Wore it in the world’s eyes
As though they’d wrought it.
Song, let them take it,
For there’s more enterprise
In walking naked.

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上着
ウィリアム・バトラー・イェイツ

俺がつくった歌は上着になった
手の込んだ刺繍を施した
古い神話由来の刺繍だ
足から首元まで手をかけた上着だ
だが 馬鹿どもが奪っていき
人々に着て見せた
自分で織り上げたとでも言うように
歌よ、そんなものは奴らにくれてやれ
なぜって もっとでっかい仕事は
裸で歩くことだからさ

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作品をつくること、服を仕立てること、仕事を完成させること。どんな場合でも、専門技術を投じて何かを作り上げるという営みには、時間と手間がかかります。

ひと針ひと針縫いつける刺繍のように。

本物の仕事には、人が求めることと作者が目指すものが一体となり、知識や経験が投じられています。そこには、見る人が見れば分かる、そんな配慮と奥深さがあります。

神話の由来を知っていれば、一層味わい深い刺繍文様のように。

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こうして芸術家が骨身を削って作り上げた作品を、奪い、あたかも自分が作ったのだというように見せびらかし、人々の注目を集めるthe fools「馬鹿もの」が現れます。

イェイツ、怒ってますねえ。

自分の力では何かを生み出すことができない者は、他人のリソースを借りてきます。

世間も世間で、見た目だけですぐに判断を下してしまうので、奪い取られた上着だけを見て、その人の手柄だと喝采を送ってしまいます。

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ここで、腹を立てて終わってしまわないのが、イェイツです。

Song, let them take it「歌よ、そんなものは奴らにくれてやれ」と、言い放ちます。

作品は奪われたとしても、残された裸の自分に実力がある限り、In walking naked.「裸で歩く」ことも構わないのだと。

本物を作ることができるプロ、その懐の深さを見せつけてますねえ。さすが、イェイツ!

裸になれない、実力のない奴が、自分では輝けないから、人のものを奪っていく。しかし、実力があれば、作品が何であれ、またかならず輝ける。

たった十行のうちに、怒りが、勇気という燃料に変わる。詩のパワーですね。

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今回の訳のポイント

専門的で技術的な、丹精込めた仕事は、投じた手間と時間の割に正当な評価を受けないことがあります。

それどころか、まがい物が世間の耳目を集め、本物の価値を貶めることすらあります。

この詩は、そんな忸怩たる思いを抱えた詩人の怒りのようで、あらゆるプロフェッショナルの心に通じるアンセムのようにも思えます。

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イェイツ自身は、アイルランド土着の神話や妖精譚を収集して、ロマンチックな詩も残していますが、次第にアイルランドの国家としての独立という問題に向き合ううちに、詩の雰囲気も変わっていきました。

その意味では、奪われてしまった詩も、過去の自分でしかない。自分は、今の作品を超えて、プロとして進化していく。

For there’s more enterprise / In walking naked.「なぜって もっとでっかい仕事は/裸で歩くことだからさ」という言葉にある通り、ありのままの自分をぶつけることは勇気がいりますが、それこそが「本物」を生み出す大きなパワーであると感じます。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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