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第69回 悩みを抱えたときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

悩みを抱える。

その言葉どおり、放り投げてしまいたい悩みを、なぜか両腕に抱えて、その重みに動けなくなってしまう。

次第に、心をじわじわと蝕んでいって、もう何をどこから手をつけていいか分からなくなる。

そんな重たく暗いメロディーに頭がいっぱいになったときに思い出す詩があります。

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Life’s Harmonies
Ella Wheeler Wilcox

Let no man pray that he know not sorrow,
Let no soul ask to be free from pain,
For the gall of to-day is the sweet of to-morrow,
And the moment’s loss is the lifetime’s gain.

Through want of a thing does its worth redouble,
Through hunger’s pangs does the feast content,
And only the heart that has harbored trouble,
Can fully rejoice when joy is sent.

Let no man shrink from the bitter tonics
Of grief, and yearning, and need, and strife,
For the rarest chords in the soul’s harmonies,
Are found in the minor strains of life.

*****

人生のハーモニー
エラ・ウィーラー・ウィルコクス

悲しみよ なくなれ そう願わないで
苦しみよ なくなれ そう望まないで
今日の苦しみは 明日のしあわせ
失うことは一瞬 でも実りは生涯続く

欠乏は満たされたとき その価値は倍にもなる
空腹の喘ぎがあって ごちそうを味わえる
悩みを抱えた心だけが味わえる
たのしみが訪れたときの歓喜を

人生の苦い薬に怯まないで
喪失 切望 貧窮 苦闘
魂が奏でるハーモニー 素敵な和音は目立たない
でも 日々の小さな戦いの中にあるの

*****

悲しみはないほうがいいし、苦しみだってないほうがいい。

そう願うのは当然ですが、この詩は、そういうことは望まないでと言って始まります。

苦しみが幸福になり、喪失が実りになる。

そんな主張を展開すべく、詩は続きます。

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For the gall of to-day is the sweet of to-morrow「今日の苦しみは 明日のしあわせ」と言われても、本当に心底そう思えるかというと、なかなか難しいものがあります。

家庭や仕事や社会の中で、ひとりの人間が抱えきれないような苦しみを背負わされて、それでも毎日を生きていかなければならないときに、本当に明日の幸せを信じられるのだろうか、そう思ったりもします。

そんな弱った心に、この詩は語りかけます。

一番の調味料は空腹と言うように、欠乏を経験したからこそ、満たされた時の味わい深さは格別で、悩みがあるからこそ楽しみを味わえる。その喜びは倍にも感じられると。

それでも「いやいや、人生そう簡単なものじゃないよ」という自分の心の声が聞えます。

*****

苦い薬を飲むのに気が引けるように、人生の苦しみに直面して、足がすくむ。

大切なひとを失ったり、手に入れたいものがなかなか手に入らなかったり、経済的な困難を抱えたり、日常の戦いに疲弊したり。

と、ここまで来て、詩のタイトルである、Life’s Harmonies「人生のハーモニー」の意味が見えてきます。

人生という曲の中で、さまざまなメロディーが奏でられますが、その中には暗く重いマイナーコードもあります。しかし、それは長い一つの曲の中の、あるパートでしかない。その和音のひとつひとつが、他にないユニークな曲を作り上げる。

そう考えてみると、今、苦しむ自分が奏でる、軋むような不協和音も、誰にも真似できない自分だけの人生を奏でているのだなと思えてきます。

*****

今回の詩のポイント

エラ・ウィーラー・ウィルコクスという詩人は、Love does not grow on every tree「愛は すべての木に育つわけじゃない」や、Laugh, and the world laughs with you「笑ってごらん 世界が一緒に笑ってくれるから」というような印象深いフレーズを数多く残しています。

この詩の最後のパートも、タイトルであるLife’s Harmonies「人生のハーモニー」とのアナロジー(類推)になっていて、イメージの力が活きています。

For the rarest chords in the soul’s harmonies,
Are found in the minor strains of life.

魂が奏でるハーモニー 素敵な和音は目立たない
でも 日々の小さな戦いの中にあるの

Harmonies「ハーモニー」→chords「コード」→minor「マイナー」といった辺りは和音のイメージ。日本の和歌の枕詞のようなものですね。そして、最後にstrains of life「日々の戦い」としましたが、strains「緊張」はピンと張りつめた弦を想起させます。

どこか心が落ち着かない、常に張りつめた気持ちでいること。それがまさにstrains「緊張」なのですが、まさにその張りつめた弦が弾かれた時に、素敵な音を奏でる。

今日も明日も明後日も戦いだとしても、そんな人生も、いつか素敵な曲になるのかな。そう期待するのも悪くないと思えてきます。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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