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第83回 ネガティブ思考に陥ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

ネガティブ思考は怖いです。

悶々と堂々巡りのような思考をするうちに、アリ地獄か底なし沼のように、ズルズルとネガティブ思考の罠に引きずり込まれていきます。

そんなときに思い出す詩があります。

*****

Sorrow
Edna St. Vincent Millay

Sorrow like a ceaseless rain
Beats upon my heart.
People twist and scream in pain,—
Dawn will find them still again;
This has neither wax nor wane,
Neither stop nor start.

People dress and go to town;
I sit in my chair.
All my thoughts are slow and brown:
Standing up or sitting down
Little matters, or what gown
Or what shoes I wear.

*****

悲しみ
エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイ

悲しみは
降りやまない雨
心に降りつづける雨
苦しみに
ひとはのたうち回り騒ぐけど
夜明けがくれば何もなかったかのよう
この悲しみは
満ちもせず欠けもせず
始まりもなければ終わりもない

ひとは着飾り街へと出かけ
わたしはと言うと椅子に腰かけ
思考はにぶり にごってしまった
立ち上がろうか 腰を下ろそうか
もう どうでもいいの
何を着ようと 何を履こうとも

*****

この詩で歌われている「悲しみ」は、a ceaseless rain「降り止まない雨」のように終わりがありません。

雨粒はふつう、屋根や葉に打ちつけるものですが、悲しみはBeats upon my heart「心に降りつづける」

ひとは何かをきっかけとして苦しんだり悲しんだりしますが、ここでの悲しみは neither wax nor wane「満ちもせず欠けもせず」Neither stop nor start「始まりもなければ終わりもない」ものです。

それは、朝が来れば解消するというものではありません。

一度入り込んでしまったネガティブ思考のトンネルでは、こんなことがあったなと思い出しては心が苦しくなったり、どうせあの人やこんな障害が現れてものごとはうまくいかないだろうと悲観したりして、いつまでも暗闇を進むことになります。

*****

自分のネガティブ思考の沼にはまっているだけならまだマシなのですが、どうしても他人との比較も避けられず、ますます殻に閉じこもってしまいます。

People dress and go to town「ひとは着飾り街へと出かけ」ていくのに、I sit in my chair「わたしはと言うと椅子に腰かけ」ているだけ。

そんな風にして、All my thoughts are slow and brown「思考はにぶり にごってしまった」と思うほどに、ネガティブ思考の沼に浸ってしまうことになります。

思考の方向性やパターンが同じになってしまって、どうしたらいいのか自分自身では考えられなくなってきてしまいます。

こうなってくると、心の重たさは身体の重たさとなり、Standing up or sitting down「立ち上がろうか 腰を下ろそうか」ということもどうでもよくなってきます。

これは、完全にネガティブ思考にやられていますね。

一番怖いのは、そうした感情のトンネルの中にいると、自分のことをもっとも的確に表している言葉こそが、頭に入ってこなくなることです。

トンネルを抜け出してはじめて、客観的にネガティブ思考の闇を知るということを、作者エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイ自身は良く知っていたのだろうと思います。

*****

今回の訳のポイント

心を蝕むネガティブ思考を的確に表現したこの詩の中に、もっとも英語らしい一行があります。

Dawn will find them still again;
夜明けがくれば何もなかったかのよう

直訳をすると、「夜明けは、彼らが再び静かになったのを見つけるだろう」となります。事物が主語になるのが、いかにも英語らしい言葉づかいで、かっこいいです。

この行の前では、ひとは何かのきっかけによって悲しんだり苦しんだりするということが描かれていますが、それはあくまでも一時的なものであり、慢性的な悲しみとは違うのだということを強調しています。

All my thoughts are slow and brown
思考はにぶり にごってしまった

こんな時は、陽の光を浴びて、風にあたって、かびくさく暗い部屋のような頭と心に、光と新鮮な空気を送らなければと思います。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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