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第87回 素晴らしいコーチに出会ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

スポーツの世界にも、ビジネスの世界にも、人の力を伸ばす素晴らしいコーチがいます。

新しいことに挑戦をして失敗したときに、人は一番多くのことを学べるとわかっていて、大いに挑戦させてくれ、間違えさせてくれる。そんな素敵な指導者に出会うと思い出す詩があります。

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A Few Rules for Beginners
Katherine Mansfield

Babies must not eat the coal
And they must not make grimaces,
Nor in party dresses roll
And must never black their faces.

They must learn that pointing’s rude,
They must sit quite still at table,
And must always eat the food
Put before them—if they’re able.

If they fall, they must not cry,
Though it’s known how painful this is;
No—there’s always Mother by
Who will comfort them with kisses.

*****

初心者心得
キャサリン・マンスフィールド

赤ちゃんは
暖炉の炭を食べてはいけません
嫌な顔をしたり
おしゃれ着で暴れ回ってはいけません
顔を汚すなんて言語道断

覚えておきなさい
人を指差すことは失礼です
静かに席に着いていましょう
ただ黙って食べましょう
目の前に出されたものをーできればだけど

転んだら
泣いてはいけません
それはそれで痛いでしょうけど
いいえ、いいえ、大丈夫
お母さんがそばにいるから
キスのおまじないがあるから

*****

赤ん坊は、まだ世の中のことを知りませんので、何が良いことで、何が良くないことなのか、分かりません。

それによって、大人がぎょっとするような行動を取ったり、とんでもない間違いをしたりします。

子供はルールを知らなかったからこそ取った行動なので、大人はただ声を荒らげて叱るのでなく、ルールであること、危険であることを教えていくということになります。

この詩では、服や顔を汚すな、人を指差すな、食事のときには暴れるな、転んでも泣くなと、とにかく「するな」のオンパレードです。

*****

しかし、最後の最後に急展開を迎えます。

No—there’s always Mother by
Who will comfort them with kisses.

いいえ、いいえ、大丈夫
お母さんがそばにいるから
キスのおまじないがあるから

転んで泣いてもいいよ。お母さんがそばにいるよ。おまじないのキスをしてあげるよ。それで万事解決!

子供だって転びたくて転んでるわけじゃなく、それで服が汚れたりするのも避けられない。それは叱るようなことでないので、まずは、「痛かったね」と抱き締めることからスタートして、「今度は気をつけようね」と諭すことになります。

と言っても、また次の一歩で、よそ見する間に転んだりして大泣きされ、ガックリきたりするのが、現実ではあるのですが。

*****

ここで、A Few Rules for Beginners「初心者心得」というこの詩のタイトルを思い出します。

誰しも初めて経験することに関しては、beginners「初心者」であり、知らないから間違え、慣れないから失敗します。

それがスポーツであれ、言語を学ぶことであれ、新しい職場であれ、最初に間違えるのは仕方ない。新しいプロジェクトや、新しい企画、手探りで進めれば、うまく行かないこともあり、失敗もします。その失敗により、どうすればいいのかを学べる。

そう考えると、「あれをするな、これをするな」と言うことよりも、「転んでもいい、おまじないのキスがあるから」と言う方が、はるかにのびのびと学びを得られるのかなと思います。

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今回の訳のポイント

この詩の核心部分となる最後の2行が、日本語に訳しにくいです。

No—there’s always Mother by
Who will comfort them with kisses.

いいえ、いいえ、大丈夫
お母さんがそばにいるから
キスのおまじないがあるから

comfortは、「痛みや悲しみを和らげる」という意味ですので、転んで泣いている赤ん坊の痛みを和らげる母親のキスとは、「痛いの痛いの飛んでけー」であり、つまり、「おまじない」としてもいいのではないかと!

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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