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第93回 生きる意味について考えるときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

生きる意味について考えさせる本や映画は無数にありますが、「こう生きるべきだ!」と強く主張するのではないタイプの言葉に惹かれることがあります。

たとえば、「ひとつの心でも 張り裂けるのを防げたら」ではじまる、この詩をふと思い出す瞬間があります。

この詩では、ツグミが大きな役割を果たします。生きる意味について考えるのに、なぜ一羽のツグミなのか。

まずは読んでみてください。

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If I can stop one heart from breaking
Emily Dickinson

If I can stop one heart from breaking,
I shall not live in vain;
If I can ease one life the aching,
Or cool one pain,
Or help one fainting robin
Unto his nest again,
I shall not live in vain.

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ひとつの心でも 張り裂けるのを防げたら
エミリー・ディキンソン

ひとつの心でも 張り裂けるのを防げたら
あたしの人生も 無駄じゃないと思える
誰かのひりひりした人生を癒やしたり
痛みを和らげたり
弱ったツグミを見つけたら
巣に戻してあげたり
あたしの人生も 無駄じゃないと思える

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「自分の人生は無駄じゃない」という、単純ですが、説得力をもたせるのが難しい主張が、短い詩の中にギュッと詰め込まれています。

私たち人間は、社会の中で、直接的にも間接的にもお互いに支え合って生きているわけですが、よりたくさんの人を助ける必要はありません。

救うのは、one heart「ひとつの心」でも十分だと、この詩は言っています。

何も特別なことはしてくれなくても良くて、ただ話を聞いてくれたり、面白い話をしてくれたり、それだけで、breaking「張り裂けそう」だった心は、救われたりもするのです。

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誰かの心の傷を治す必要もありません。社会の病巣を、ひとりで取り除くスーパーヒーローになる必要もありません。

aching「ヒリヒリ」するような痛みや、ジンジンとする痛みを、cool「冷ます」ことができたならと、この詩は言います。

生きていると、自分にはコントロールできないことに左右されたり、人のために時間とエネルギーを費やしたり。そのようにままならないことが次々訪れて、知らず知らずの内に心が蝕まれてしまうことがあります。

そんな心の擦り傷がヒリヒリ、ジンジンするときに、そっとその熱を癒やしてくれるだけでも、大いに意味があるのだと。

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生きる意味を考えようとすると、どうしても大仰に構えてしまいますが、もっと卑近で卑小なことに意味は宿るように思えます。

誰かにとってのかけがえのない自分である必要もありません。ただ困っているひとに手を貸すだけでいいのです。

巣から落ちたツグミを木の上に戻すとき、わたしたちは見返りなど期待しません。困っているから助ける、というだけのことなのです。

ツグミは鳥ですから、決して「せめてお名前だけでも」と聞いてくることもありませんし、「名乗るほどの者じゃございません」とカッコつける必要もありません。

そんな気持ちで誰もがひとに向き合えたら、世界はもっと良い場所になるのだろうと思います。

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今回の訳のポイント

この詩は、If「もし」を使って、仮定の話をしています。

仮定と言うと、よくロマンチックな歌詞で、If I could reach the stars「もし星に手が届いたら」というように、”could”という単語を使って、現実にはありえない仮定を歌うことがあります。

しかし、この詩の仮定は異なります。If I can stop one heart from breaking「ひとつの心でも 張り裂けるのを防げたら」という仮定を示す言葉の中の”can”は、「こうすればこうなる」というはっきりとした可能性を示しています。

より多くの人の人生を良くすることにエネルギーを注ぎたいのですが、24時間365日という時間と、ひとつの身体という制限があって、葛藤を感じます。

しかし、目の前で助けを求めるひとつの心に手を差し伸べることも同じように尊く、それは、”can”という可能性が確かに感じられる行動であり、無駄ではないのだと信じられます。

ツグミを巣に戻すように、シンプルな心で手を差し伸べる自分でいたいと思います。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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