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第112回 年をとったと感じるときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

疲れが抜けなかったり、白髪が増えたり、年をとったと感じるときはいろいろあります。

「五月」という詩があって、自分はそれを読むと、もう若くないと感じます。「年をとること」と「五月」に一体どんなつながりがあるのか。新緑の眩しさを思い浮かべて、この詩を読んでみてください。

*****

May
Christina Rossetti

I cannot tell you how it was,
But this I know: it came to pass
Upon a bright and sunny day
When May was young; ah, pleasant May!
As yet the poppies were not born
Between the blades of tender corn;
The last egg had not hatched as yet,
Nor any bird foregone its mate.

I cannot tell you what it was,
But this I know: it did but pass.
It passed away with sunny May,
Like all sweet things it passed away,
And left me old, and cold, and gray.

*****

五月
クリスティーナ・ロセッティ

それがどんなものだったか
うまく説明できないの
でも 自分ではよくわかってる それはやって来た
それは晴れ渡ったある日のこと
まだ五月に入ったばかりのこと
ああ、素敵な五月のこと!
まだポピーは咲ききっていなかった
コーンのやわらかな葉に見え隠れするものだけど
最後の卵はまだ孵っていなかった
かといって先に巣立った雛もいなかった

それが何だったか
うまく説明できないの
でも 自分ではよくわかってる それは去って行った
晴れの五月とともに去ってしまった
ありとあらゆる素敵なことと同じように去ってしまった
そして年老いてすっかり元気をなくした
白髪のわたし

*****

若さを失い、年をとったと感じるというメッセージは、最後の最後に出てくるだけです。それまでは「それ」がなくなってしまったとほのめかされているだけです。いかにも詩らしいですよね。

Upon a bright and sunny day
When May was young; ah, pleasant May!

それは晴れ渡ったある日のこと
まだ五月に入ったばかりのこと 

「五月」という言葉を聞いて、どんなことを思い浮かべますか。この詩では、ポピーやコーンといった植物の芽吹から、生き物たちの躍動まで、春の気配を感じさせるキーワードが並びます。

The last egg had not hatched as yet,
Nor any bird foregone its mate.

最後の卵はまだ孵っていなかった
かといって先に巣立った雛もいなかった

鳥たちの巣も命で溢れています。卵を温める親鳥や、餌をせがむ雛鳥たちの様子が生命力を感じさせます。

人間も負けていません。子どもを見ていると、どこからそのエネルギーが湧いてくるのかと思うほどに、無尽蔵の体力で跳ね回っていて、その野生的パワーにつくづく感心します。

しかし、ここで詩は、春の輝きが去ってしまったというネガティブ路線に舵を切ります。

*****

I cannot tell you what it was,
But this I know: it did but pass.

それが何だったか
うまく説明できないの
でも 自分ではよくわかってる それは去って行った

「それ」とは、つまり、若さのことだろうとこのあたりで気づきます。生命力あふれる春は、季節としての春であり、自分が輝いていた人生の春。

夏はまだというのにギラギラと照りつける、そんな太陽に灼かれながら一日中砂浜で過ごしたり、ムワッとする青い草いきれを胸いっぱいに吸い込んだり、汗が滲んだ手を取り合ってドキドキしたり。

It passed away with sunny May,
Like all sweet things it passed away,

晴れの五月とともに去ってしまった
ありとあらゆる素敵なことと同じように去ってしまった

甘酸っぱい思い出だけを残して、人生の五月は去ってゆく。そんなビタースウィートメモリーという雰囲気が、この詩人クリスティーナ・ロセッティの真骨頂です。

それにしても、「ありとあらゆる素敵なことと同じように」とまで言うのかい、クリスティーナ。そこまでネガティブにならなくてもいいじゃないか、そう思うのは自分だけでしょうか。

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今回の訳のポイント

この詩の締めくくりとなる最後の一行が印象的です。

And left me old, and cold, and gray.

そして年老いてすっかり元気をなくした
白髪のわたし

leave+ひと+形容詞という形をしているので、「ひとを〜な状態にしていった」というのが、過去の言い方になります。

人生の春は過ぎて、若き日の熱は冷め、残されたのは白髪のわたし。でも、心には過ぎ去った日々の思い出があって、心をいつも暖めている。

過去を振り返るなとよく言われますが、こんなに瑞々しく美しい詩があるなら、それも悪くないなと思います。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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