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第184回 移り気なひとに出会ったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

移り気な人、いますよねえ。

悪く言えば、気まぐれなのですが、いい意味では、常に様々な人や物事に興味を持つ人と言えます。

夏が好き。でも、秋が来たら、やっぱり秋も好き。そんな調子で、移り気な人に出会ったときに思い出す詩があります。

*****

Autumn Fires
Robert Louis Stevenson

In the other gardens
And all up the vale,
From the autumn bonfires
See the smoke trail!

Pleasant summer over
And all the summer flowers,
The red fire blazes,
The grey smoke towers.

Sing a song of seasons!
Something bright in all!
Flowers in the summer,
Fires in the fall!

*****

秋のたき火
ロバート・ルイス・スティーブンソン

よその家の庭や
あちこちの谷の上の方に
秋のたき火から
たなびく煙が見える

楽しい夏は過ぎた
夏の花もみな散った
赤い火が燃えさかる
灰色の煙が立ちのぼる

季節の歌を歌おう!
あらゆるものに輝かしい何かがある
夏には花が
秋にはたき火が

*****

夏は花があって好き!秋は秋で、たき火の風情があって好き!

つまり、季節それぞれに良いところがあって、どの季節も好き!ということなのですが、人それぞれに良いところがあって、どの人も好き!と言うのに似ているなあと思ったんです。

In the other gardens
And all up the vale,
From the autumn bonfires
See the smoke trail!
よその家の庭や
あちこちの谷の上の方に
秋のたき火から
たなびく煙が見える

たき火は、秋の象徴。庭や谷に、たき火の煙が見えると、秋の到来です。

太古の昔、人類の祖先が火を使うことを覚えてから、火は人間の暮らしに欠かせないものになりました。fireは、より一般的な「火」「たき火」を指しますが、bonfireは「かがり火」であり、祝祭や宗教的な意味合いを持って、世界中の様々な文化で受け入れられてきました。ある宗教や文化にとって、火を伴う儀式は季節の訪れを感じさせるものにもなりますね。

Sing a song of seasons!
Something bright in all!
Flowers in the summer,
Fires in the fall!
季節の歌を歌おう!
あらゆるものに輝かしい何かがある
夏には花が
秋にはたき火が

華やぐ夏が過ぎ、季節がめぐり、秋が訪れると、秋には秋の華やぎがあることを知る。

この詩の一番素敵な箇所です。

Something bright in all!
あらゆるものに輝かしい何かがある

考えてみると、移り気なのではなくて、ヒトもモノゴトもそれぞれに「輝かしい何かがある」ので、全部が好きになっていくということなのかなと思うんです。どちらが好きでなく、どちらもそれぞれに代えがたい魅力があるのだと。

だから、好きの対象が移っていくというより、好きなものが増えていくということなのかなと思います。で、不思議なことに、自分の持っている興味と愛情を割り算して振り分けるのでなくて、新しいヒトやモノゴトに出会うたびに、自分の持ちうる興味と愛情の総量そのものが増えるということなのかなと。

これは、愛情を振り分ける派と、愛情の総量が増える派の間で、永遠に平行線をたどる議論となりそうなので、深入りしないことにします!

*****

今回の訳のポイント

この詩の最重要にして最高の1行がこれです。

Something bright in all!
あらゆるものに輝かしい何かがある

「すべてのヒトやモノゴトに素敵な何かが宿る」と言うと、綺麗事のように聞こえるかもしれません。でも、そう思うのは目が曇ってるからなのだ!と、『ダーバヴィル家のテス』という19世紀末の小説の一節を読むたびに思わせてくれます。

主人公である貧しい農家の娘テスの悲劇的一生を描いた一大叙事詩的小説なのですが、彼女が出会う青年エンジェルが、牧師になるという恵まれた道を捨てて農村で暮らすうちに、人間を紋切り型で見てしまっていたことに気づく場面です。

The thought of Pascal’s was brought home to him: “A mesure qu’on a plus d’esprit, on trouve qu’il y a plus d’hommes originaux. Les gens du commun ne trouvent pas de différence entre les hommes.” The typical and unvarying Hodge ceased to exist. He had been disintegrated into a number of varied fellow-creatures—beings of many minds, beings infinite in difference;
『知性のすぐれた人ほど、人の多様さに気づける。凡人は、人々の間の違いに気づけない』というパスカルの思想が、彼には初めて身に染みて分かった。紋切り型で十把一絡げの「お百姓さん」は存在しなくなった。「お百姓さん」はそれぞれ違った多数の人間で、それぞれに異なる心の持ち主で、無限の違いを持つ存在に、分けることができた。

長いようで短い人生の中で、私たちは、夏のような人や秋のような人と出会います。季節のように、それぞれに異なり魅力ある人たち。

だから、移り気だと言われても、歌っていいと思うんです。夏の歌でもなく、秋の歌でもなく、季節の歌を。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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