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第197回 平和な1年を願うときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

平和を実現するのは、なぜこんなに難しいのでしょうか。

平穏な生活は、なぜ簡単に崩れてしまうのでしょうか。

子どもが無邪気に遊んでいるのを見ると、平和の尊さを思わずにはいられません。

そんなときに思い出す詩があります。

*****

Frolic
George William A.E. Russell

The children were shouting together
And racing along the sands,
A glimmer of dancing shadows,
A dovelike flutter of hands.

The stars were shouting in heaven,
The sun was chasing the moon:
The game was the same as the children’s,
They danced to the self-same tune.

The whole of the world was merry,
One joy from the vale to the height,
Where the blue woods of twilight encircled
The lovely lawns of the light.

*****

はしゃぎ回る
ジョージ・ウィリアム・ラッセル

子どもたちは大声ではしゃぎ回っていた
砂浜を駆け回っていた
ダンスするように揺らめく影
鳩が翼を広げるような子どもたちの手

星々は天空でさざめいていた
太陽は月を追いかけていた
興じていたのは子どもたちと同じ遊び
踊っていたのはまったく同じ調べ

世界はどこも喜びに満ちていた
谷から山まで喜びはひとつ
黄昏に蒼く染まる木立
広がる光のカーペット

*****

平和そのものの光景ですよね。

無邪気に遊ぶ子どもたち。そのシルエットが、光の中で揺らめく。

星や太陽や月も、同じように、踊るようにして空を渡ってゆく。その輝きはあまねく大地を照らすのだった。そんな平和な光景が描かれています。

The children were shouting together
And racing along the sands,
A glimmer of dancing shadows,
A dovelike flutter of hands.
子どもたちは大声ではしゃぎ回っていた
砂浜を駆け回っていた
ダンスするように揺らめく影
鳩が翼を広げるような子どもたちの手

これだけで、何物にも代えがたい平穏さが感じられますよね。

子どもたちが思い切りはしゃぎ回れる。

あたりまえに思える暮らしの穏やかさが、奇跡的な偶然によって、たまたま享受できているのだとするなら、平和というのは本当に尊いものであるのだと思えてきます。

The stars were shouting in heaven,
The sun was chasing the moon:
The game was the same as the children’s,
They danced to the self-same tune.
星々は天空でさざめいていた
太陽は月を追いかけていた
興じていたのは子どもたちと同じ遊び
踊っていたのはまったく同じ調べ

太陽が、月が、変わらず昇ること。これは、子どもが無邪気に走り回れることと同じように、平和そのもの。波乱や動乱なく、変わらぬ毎日があること。

子どもという目の前の小さな存在から、宇宙空間に浮かぶ太陽や月へと一気にスケールアップしたとしても、変わらずにある、という点ではどちらも等価なんですよね。

The whole of the world was merry,
One joy from the vale to the height,
Where the blue woods of twilight encircled
The lovely lawns of the light.
世界はどこも喜びに満ちていた
谷から山まで喜びはひとつ
黄昏に蒼く染まる木立
広がる光のカーペット

子どもから太陽と月へ視点が移動し、最後は谷から山、木立へと穏やかな喜びの光がひたひたと広がっていきます。

光のたもとには、どれほどの悲しみがあるのだろうかなどと考えてしまったりもするのですが、それらを圧倒するほどの穏やかな光のカーペット。夕陽を眺めながら浜辺でのんびりするときの、光に包まれる感覚がまさにこれですね。

人生は長いようで短い。今この瞬間に享受している幸せは、いつまで続くか分からないからこそ、大切にしよう。改めて、そう思います。

*****

今回の訳のポイント

子どもたちがはしゃぎ回る姿から、太陽と月、谷、山、木立を照らす夕陽という、平和な光景が象徴的に描かれていて、穏やかで暖かい感情がぶわーっと押し寄せてくる、この詩。

最大の難関は最後の最後に存在します。

The lovely lawns of the light.
広がる光のカーペット

「最後の lawns って、芝生ですよね?」という突っ込みはちょっと待って、話を聞いてください!

「広がる光の芝生」と言ったところで、意味わからないじゃないですか!

世界をあまねく穏やかに照らす光。山も谷も木立も夕陽に暖められている。芝生のようにぺたーっと広がっていて、暖かさを感じられるような何か。

「光のカーペット」で、どうか勘弁してください!

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END