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第208回 香水の匂いをかいだときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

香水の匂いをかぐ。

香水って、ふとした時に漂ってくる匂いに、特別な力があるような気がしませんか。

街の雑踏ですれ違った人の香水で、懐かしい人を思い出したり。

そんなときに思い出す詩があります。

*****

Sudden Light
Dante Gabriel Rossetti

I have been here before,
But when or how I cannot tell:
I know the grass beyond the door,
The sweet, keen smell,
The sighing sound, the lights around the shore.
You have been mine before,—
How long ago I may not know:
But just when at the swallow’s soar
Your neck turned so,
Some veil did fall—I knew it all of yore.
Has this been thus before?
And shall not thus time’s eddying flight
Still with our lives our love restore
In death’s despite,
And day and night yield one delight once more?

*****

ふいの光
ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ

むかし こんなことがあったな
いつどんなだったかは分からないけれど
覚えているのは 戸口の向こうの草むらや
甘くするどい あの香り
吐息のような風や 海辺の灯火
むかし 君は僕のものだった
どれくらい遠いむかしのことだっただろうか
ツバメが空に舞い上がると
君もそちらを見上げた
ベールが舞い降りて 
すべては遠い日のことなのだと分かった
そんなにむかしのことだったのかな
渦巻く時の流れを飛び越え
僕たちの人生にあの愛をよみがえらせ
死さえも乗り越えて
昼も夜も またあの喜びを 味わうことはできないのかな

*****

ザ・思い出、ですねえ!

I know the grass beyond the door,
The sweet, keen smell,
The sighing sound, the lights around the shore.
覚えているのは 戸口の向こうの草むらや
甘くするどい あの香り
吐息のような風や 海辺の灯火

草むらの緑の色。甘く強烈な香り。頬をなでる優しい風。瞳に映る灯火。

頭でも心でもなく、五感が、身体が覚えているんですよねえ。写真も映像も、その瞬間を永遠に留めてくれますが、匂いまでは閉じ込めてはくれません。

香水の匂いをかぐたびに思うのは、香りは言葉では説明しきれないけれど、自分の記憶に確かに残るもので、その周囲の情景までも一体にして思い出として残してくれるということ。

そして、今ここにいない君のことを思い出させるという、最強の効果が!

You have been mine before,—
How long ago I may not know:
But just when at the swallow’s soar
Your neck turned so,
むかし 君は僕のものだった
どれくらい遠いむかしのことだっただろうか
ツバメが空に舞い上がると
君もそちらを見上げた

その瞬間を映像的に覚えているというのが良いですよねえ。

覚えているのは、君の瞳でも、髪でも、声でもなく、君が空を見上げたその仕草!

こんなにも鮮明に覚えているのだから、願うことはひとつ。あの喜びをまた味わいたいという気持ち。

In death’s despite,
And day and night yield one delight once more?
死さえも乗り越えて
昼も夜も またあの喜びを 味わうことはできないのかな

思い出というのは、このひと言に尽きますね。

記憶は、こんなにもありありと鮮明なのだから、あの瞬間の喜びをもう一度!と願ってしまう。

この詩のタイトルは、Sudden Light「ふいの光」

ふと目に映った光が陽炎のように揺れて、過去のある瞬間へと誘ってくれる。香水の匂いに、一瞬にして、あの日あの時あの場所で自分を包んでいた時間を思い出させてくれる。

そんな不思議な力をもつ魔法の薬。それが香水なんですよね。

*****

今回の訳のポイント

ふとしたきっかけで思い出がよみがえる。その時間と空間を超えた感覚をロマンチックに描いたのが、この詩ですが、時間感覚という点で興味深い行があります。

And shall not thus time’s eddying flight
Still with our lives our love restore
渦巻く時の流れを飛び越え
僕たちの人生にあの愛をよみがえらせ

空を旋回して昇っていく鳥。時間も渦のように進む。つまり、時間は直線的に進んでいくのではない。ロマンチックな詩に見えて、ずいぶん哲学的な話になりました!

これは、「直線型の時間」と「円環型の時間」という捉え方の違いです。時間は二度と戻らずに終わりへ向かって一直線に進むのか、それとも、終わりと始まりを繰り返しながら円のように進んでいくのか。

この詩に見られるのは「円環型の時間」と言えます。

旋回しながら飛ぶ鳥。渦巻いて進む時間。これらと呼応するように、詩の言葉も選ばれています。

The sweet, keen smell,
The sighing sound, the lights around the shore.
甘くするどい あの香り
吐息のような風や 海辺の灯火

ここでは、sの音が繰り返されていて、香りを乗せて吹きすぎる風の音や波のサラサラとしたさざめきが聞こえてきそうですよね。

In death’s despite,
And day and night yield one delight once more?
死さえも乗り越えて
昼も夜も またあの喜びを 味わうことはできないのかな

こちらは、despite/night/delightと、文の中で韻が踏まれています。こうした、音や韻の規則性が、循環する時間を象徴しているように感じられませんか。

人の営みも、ただ一直線に未来へ進み、出発地点から目標地点を目指すわけではなくて、むしろ、これで終わりということがない。過去を振り返り学びもするし、春夏秋冬を繰り返しながら自然の営みも続き、そこにインスピレーションを得たりもする。

渦巻いて進む時の中で、あの人やあの瞬間を思い出させてくれる香水。どんな香水と今日は過ごそうかな。そんなことを考えてしまいますね。

 

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Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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