INTERPRETATION

第4回 リスニングやり直し勉強法2

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

前回、リスニングトレーニングは英語を聞く量ではなく、トレーニングの質を重視したやり方が重要であるという話をしました。本当に集中して聞けているのであれば、量を増やすことで成果を上げることはできますが、ただ聞き流したり、集中できていないのにとりあえず聞くというような練習は、かけた時間に対する成果を考えると効率的なやり方ではありません。音を聞くトレーニングがメインの方は成果が上がっているかを確認してみてください。

リスニングは音だけで理解しないといけないので、どうしても音を使ったトレーニングをメインにする方が多いと思いますが、読むトレーニングも実は重要です。通訳クラスでも、自分の知っている単語が聞こえると内容が何となくわかったと思う方が多いのですが、実際には内容が全く分かっていないケースも少なくありません。またビジネス英語の講座でTOEICのパート4の問題を使った時に、設問には全問正解できるのに内容を全く誤解していたケースもありました。聞いてわかったと思ったのに、実際には全く理解できていなかったのはなぜでしょうか?

例えば、次のような英語が流れてきたとすると

It’s useful to have a rule of thumb on what to wear, and for my money, it’s usually better to be overdressed than underdressed.

単語自体難しいものは入っていないので、これを音で聞くと何となくわかったと思ってしまうのでしょう。ある生徒さんに何の話でしたか?と聞くと、”役に立つ洋服とお金の話”でしたと授業の中でおっしゃっていました。この方は恐らく太文字/下線の単語をベースに内容を連想したのだと思います。

次にスクリプトを一緒に確認したら、単語自体は全て知っているし、それぞれの発音も問題ありませんでしたが、音を聞いた時とスクリプトを見た後でも、内容の理解度はほとんど変わりませんでした。知っている単語しか使われていなくて、比較的ゆっくりと話されていたにもかかわらず、理解できなかったのは音の問題ではなく、英語そのものの理解力(読む力)が問題でした。

いまだに日本人は読み書きが得意で、話すことと聞くことが弱いと信じている人がいますが、実際にはそうではありません。読む力があれば、音の練習をすれば比較的短時間でも成果を上げられますが、読む力が弱い人がいくら音の練習をしてもなかなか成果は出ません。

通常”読む”というと辞書を引いてわかるまで時間をかけて読むというイメージを持つ方もいますが、ここでいう”読む”というのは少し違います。先ほどの英文を実際に読むと、7~10秒くらいかかります。この英文を聞き取るためには、スクリプトも同じくらいのスピード(7秒~10秒)で理解する必要があります。もしこの英語を理解するのに、辞書を引いて数分かかるのであれば、到底聞いて理解することはできません。

リスニング力をアップさせるために必要な読む力というのは、音声と同じくらいのスピードで読む力を指していて、自分が聞けるようになりたいレベルの英文を話すのと同じくらいのスピードで情報を処理することがカギになります。実際に、自分の持っているリスニング教材のスクリプトを話されるスピードで読んでみると案外難しいと感じると思います。

リーディングと言えば、自分のペースで辞書を引いてわかるまで調べるという勉強方法が主流なので、ここまで早く読んで理解するというトレーニングをしてきたことがない人にはかなり大変な訓練だと思います。読むことが得意な人でも、このように読むスピードを設定して読むとなるとうまくできない人もいます。

またあまり英語が得意でない方、英語に慣れていない方は英語を一度音読または黙読し、読めない単語があると一瞬止まって読み方を考えたりと、もう一度読んでみるといった余計な作業をする方がいますが、それでは音声と同じスピードで読むことは不可能です。英単語を読まずにそのままダイレクトに情報を取るようにしてください。それと”全てを理解しないといけない”という考え方から”わからないところは深く考えずに、スピーカーが何をいいたいのかを捉える”という考え方に変えて読むことも重要です。

来週はスクリプトを前から読んでいくためサイトラについて考えてみたいと思います。今回使用した英文も次のコラムで説明しますので、どうやって前から読むのかを考えてみてください。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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