INTERPRETATION

第25回 コツコツ勉強できないあなたに

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

お久しぶりです。原稿を書かなければと思いつつも、目の前の仕事をこなすうちに今まで原稿が書けず来てしまいました。計画性がある方は仕事の量の増減に影響されず、きちんと原稿を出していくのだと思います。皆さんは計画性があり、コツコツと計画を進めていけますか?

通訳にしろ、英語の勉強にしろ、一般的にはコツコツと努力する傾向の強い女性の方が向いていると言われていますし、通訳業界において女性が圧倒的に多いというのも語学学習の適性を考えると納得できます。ただ私のようにコツコツ型でなくても語学を生業としているというのは、必ずしもコツコツ型だけが語学をものにするわけではないことを示しています。

コツコツ型でないとすれば、どういう性格や特性が計画性のなさを補ってくれるのでしょうか?これまでの学生生活を振り返ってみて、英語だけでなくどの教科も共通して、細かい計画を立てて勉強するタイプではありませんでした。夏休みの宿題も夏休み終わってから一気に片づけるような学生でした。

高校大学では、あまり興味のない教科に関しては、試験前に友達のノートをコピーしまくって、試験直前に一気に覚えて乗り切っていました。他の人が数か月かけて勉強したことを1週間ほどで理解しようとするわけですから、無駄な勉強は許されないわけです。試験をクリアするという大きな目標があって、そこに最短で行くためにどうすればいいのかを限られた時間の中で考え抜き、優先順位を決めて、それを一心不乱にこなしていくのです。

毎日コツコツやっていたら、そんなこと考える必要はないわけですが、ぎりぎりまで手を付けずにきてしまったがために、”今、この瞬間に何をすればいいのか?”を考え、実行するやり方が染みついてしまったようです。フリーランスの通訳としては、この集中と選択的なアプローチは非常に役に立っています。

仕事の資料や情報が自分の望むようなタイミングではなく、前日に何百ページの資料が来ることも珍しくないため、コツコツアプローチでは対応できなくなってしまいます。ゴール(明日の仕事)をイメージし、今何をすべきか、どこまでできるのかを判断し、それに向かって一気に進んでいきます。

もし皆さんがコツコツ型で、それで着実に力が付いているのであれば、そのまま進めてください。その方が当然負荷も少なく、より安定した力をつけることができます。ただ毎日コツコツがどうしてもできない方、心配も後悔も不要です。コツコツ型でなくても語学はものにできます。
ただコツコツ型の人がゆっくりと時間をかけて進めてきたものを、その何分の1または何十分の1の時間で、同じまたはそれ以上の効果を上げるとなるとかなりの集中力が必要です。

集中力を上げていくやり方は人それぞれ違うと思いますが、私の場合は”緊急性”を利用することで集中力を生み出しています。例えば、夜の10時から、100ページの資料を明日の仕事のために読んで準備するというように時間という制約があるので、この緊急性を使ってやらざるを得ないという状況を使って集中します。もしできなければ、明日の通訳で自分がどうなるのかわかっているので、集中できるわけです。

緊急性というのは時間的に余裕があり、できようができまいが結果が同じという状況では生まれません。英語の勉強にもこのやり方を使えるのではないでしょうか。コツコツ続けられないのであれば、自分なりの救急性をあえて生み出し、自分を追い込んで勉強していくのです。

緊急性のわかりやすい例としては、テストを受けるとか昇進がかかっている状況がありますが、日々の勉強にとっての緊急性としてはスパンが長すぎます。できたら1週間分の勉強量を半日~1日でやってしまうくらいがいいと思います。もしできなかったら晩御飯を友達におごるとか、普段自分がやりたくない家事をこれから1週間やると家族に宣言するとか、自分が好きなものを1週間我慢するとか、自分がどうしてもやりたくないことで緊急性を生み出して、何が何でもやるというモチベーションにしてみるのもいいと思います。

もっとポジティブに自分へのご褒美をモチベーションにしてというやり方もあるとは思います。もう少し長期的にテストに合格したらとか昇進したらといったものに対してであれば、自分へのご褒美はとても有効だと思いますが、短期的に緊急性を生み出すにはあまり適していないと思います。どうしても今やらないといけないモチベーションとしては、欲しいものではなく欲しくないものの方が強く作用するからです。

このやり方をずっと続けていくのは精神衛生上良くないかもしれませんが、1週間で予定したものを半日~1日でできるという成功体験ができれば、それ以降の勉強の質は確実に上がりますし、その方の学習生産性も大きく向上します。

やろうと思っていながら、なかなか実行できないという負のスパイラスから抜け出す意味でも一度試してみてはいかがでしょうか?

 

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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