INTERPRETATION

第20回 もう一つのやり直し

上谷覚志

忙しい人のためのビジネス英語道場

 前回のコラムで「正統派の英語の勉強」と「今必要な英語のスキルの習得」とは違うという話をしました。”ビジネスで英語を使う”さらに”自分の業務を英語で行う”という風に限定するとかなり習得するスキルを絞り込むことができます。

 ”英語をやり直す”となると、以前書いた英文法をやり直したり、単語を覚えたりするのが一般的ですが、英語が好きな(好きだった)人にとっては大したことではないかもしれませんが、英語嫌いの人や長く英語から離れていた人にとっては、このフェーズを乗り切ること自体かなり困難で、多くの人が途中で挫折してしまうのではないでしょうか?

 基礎的なことをおろそかにして先を急いでも、いつかは基礎に立ち返ることになりますし、基礎的なことを知らないがために、余計な回り道をすることもあります。ただどれだけ多くの人が途中で挫折してしまうかを考えると、基礎の振り返りにあまり時間をかけすぎるのも良くないのではないかと思うことがあります。

 また”基礎的なこと”の定義も実際にはあいまいです。英語から離れている人や苦手な人は、おそらくどこからどこまでが基礎なのか、その先の応用編において、基礎で学んだことをどう活用して行けばいいのかもわからないと思います。基礎が大切と信じて勉強はしてきたものの、それが将来自分にどういうメリットがあるのかがわからないまま何カ月も勉強を続けること自体かなりの苦痛です。

 「正統派の英語の勉強」で失敗した人はどうすればいいのでしょうか?再度テキストや環境を変えてチャレンジしてみるのも手ですが、思い切って「今必要な英語のスキルの習得」に絞ることをお勧めします。

 まずは自分が何を英語で言わないといけないのか(言いたいのか)をどんどん書き出していきます。普段業務で英語を使っている人なら、会議でうまく言えなかったことや業務文書の中で出てきた表現で自分の知らなかったものをすぐにメモします。あとで自分が英語でうまく言えなかったものを自分で英作して次に使えるように準備しておきます。この作業を3か月続けていけば、業務で自分が言わないといけないことはかなりカバーできるはずです。

 自分で言えなかったことを英語にして果たして合っているのかどうかという問題は残ります。周りに英語のできる人がいれば書いたものをチェックしてもらえると安心ですが、必ずしもチェックしてくれる人が周りにいるとは限りません。間違ったことを覚えてしまうのではと神経質になる人もいますが、私は自分で調べられる限り調べて、おそらく通じると判断したものであれば自信を持って使ってみるべきだと思います。

 ひょっとしたら間違った表現で、会議で笑いを誘ってしまうかもしれませんが、その時にどう言うべきか相手が教えてくれるでしょうし、それによって評価が下がることはありません。ちょっと不自然な英語でも前回よりも発言が増えたことで逆に積極性が評価されることになります。合っているかどうかを心配して発言をしないということは英語上達の面でもまた仕事上の評価の面でも大きなマイナスだと思います。

 業務で英語を使っていない人の場合は、どうすればいいのでしょうか?その方の場合は日常的に英語を使っていないわけですから、「今必要な英語のスキル」を定義することは難しいわけですが、英語を勉強するからには何らかの目的があるはずです。例えば転職するのであれば、英語の面接で自分をアピールするための練習に絞るのもいいでしょう。もう少し範囲を広げて、自分の日常生活を説明できるかどうかを振り返ってみるのもいいと思います。

 アメリカで生活を始めたころ、日常生活の表現が乏しく、持ち歩きできるメモ帳とペンを常に携帯していました。周りにある物で、英語で言えないものを片っ端から書き出したり、日常の表現、例えば髪を切ってもらうときの表現など、とにかくわからないものをどんどん書いては調べて、次の機会にはそれを使ってみるようにしました。辞書に書いてあったのに言ってみたら笑われたという経験も二度三度ではありませんでしたが、それも学習プロセスと楽しんでいました。今でも気になる表現があるとすぐにメモして調べるようにしています。

 ほとんどの方が電車で通勤されていると思いますが、車内の雑誌の吊り広告を使わない手はありません。通常雑誌広告は1週間くらい同じものが吊ってありますので、吊り広告の中で英語にできない表現があったら、メモして調べておくと、また同じ吊り広告を見る機会はあると思います。雑誌によっては芸能人の離婚からアベノミクスといった政治経済までさまざまな旬のトピックがカバーされるため、こういった旬の用語を調べて、次電車に乗った時に思い出せるかどうかを続けていくだけでも、時事英語の力が付きます。

 自分に必要な表現に絞っていくと、調べたり学習したことがすぐに使えるという実感を得ることができますので、「正統派の英語の勉強」よりも楽しく続けられると思います。自分で調べていく中で、必要に応じで文法を見直したり、単語を覚えたりしていけば、正統派の英語の勉強でカバーするのと同じように”基礎的なこと”を学べると思います。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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